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プロローグ 永久の平和

「バザハムート!! 気をしっかりと保たぬか!」 ラーヴェン王城の一室。ここには今、現女王のレナハをはじめ、宰相や使用人が大勢つめかけていた。 女王レナハがバザハムート、と呼ばれた老婆の手を強く握る。 「は……は…っ。もう、このばばぁは…お役御免、ですかな…いやはや…こんなに早く、迎えが来てしまう、……とは…」 ……バザハムート。シェヴァンノ大陸一の富大国であるラーヴェンの大予言師。 ラーヴェンにとって予言師の存在は、これなくしてラーヴェンは語れぬ、と言われる程に密な関係にある。そして現予言師にして当代最高と言われたバザハムートは、もはや伝説とさえ謳われる存在だった。 その、大予言師バザハムートの命の花が、枯れようとしている。 「何を弱気になっているんだ貴様!! らしくもない…! いつもの威勢はどうしたんだ、バザハムート…!!!」 レナハがバザハムートの手を強く握る。 昔、女王の幼い頃にバザハムートが教師役をしていた。故に、旧知の仲であった。 無論、レナハが女王の座についた暁には、バザハムートが予言師の座に任命された。ラーヴェンにおける予言師は、王の右腕とも呼べる重要な役職である。 「このバザハムートとて、死期が間近になればただの老いぼれ……。陛下、どうか……先立つ無礼をお許し下さいませ…。後任は我が娘、リュオンにどうか……どうか……」 「バザハムート!! …許さんぞ…貴様、わらわより早く逝くなど絶対に許さんぞ!!」 「このバザハムート…ラーヴェンの、陛下の右腕として生涯務められたこと……まことに幸せにございました…」 「バザハムート!!」 「ラーヴェンに……幸多からんことを……」 「バザハムート___っ!!!」 微かに感じていた力が抜ける。手を握り返していたバザハムートの手が無情にも、ベッドへと落ちる。 王医がポツリと呟く。 「ご臨終で…ございます」 レナハの瞳から、涙は流れなかった。 「陛下、少しよろしいでしょうか」 「……リュオンか、どうしたのだ」 「ここでははばかられます故、どうか…」 「………よかろう」 レナハはリュオンによって地下のリュオンの私室へと案内された。バザハムートの娘、リュオンの予言師任命の儀式が終了した直後のことだった。 「ご足労感謝致します。このような場所で誠に申し訳ありませんが、内密ゆえ…どうかお許しを」 「よい、気にするな。それよりも話とは…」 「…っは。では失礼して。 先日、我が母が亡くなる、前の日でございます。実は母からこのような書物を預かっておりまして、私の予言師任命の儀が終わり次第、至急レナハ陛下へお見せしろ…と仰せつかっております。……どうぞ」 「……っな、バザハムートは自分の死期を悟っておったというのか?!」 「…ひとつきほど前には分かっていたようです」 「流石は当代最高と謳われた奴よな…」 目を通して、レナハは驚愕した。 「………っな、これは…?!」 「はい。我が母、最後の予言にございます。私もこのようなものであるとはつゆ知らず…」 そこには、信じがたいことが書かれていた。 '' <聖戦の幕開け>(プラチナ・アダム) 星の子が流れる日の晩、紅蓮の炎を吐く地上の王によってその力は目覚める。 運命の魂との逢瀬は更なり、それは絶大な力を有し、母なる地に永遠の和平をもたらすであろう " 「そしてこれが、この予言書が、母から陛下への最後の言葉にございます。……信じるか、信じないかは……陛下次第、と」 「……っは、笑わせる! 最高の置き土産だな、バザハムート!!」 「………どうなさいますか?」 「そんなの、決まっておろう」 リュオンを一人地下室に残し、レナハは足取り軽く中庭へと出れるバルコニーに向かう。 「ラーヴェン王城の皆に告ぐ!! これより永遠の平和の申し子を見つけよ!! 1番早く見つけてきた者には言い値の報酬を出そう!!」 これが世に名高い「ラーヴェンの大改革」。 ダグラナの生まれる、5年前のできごとである。

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