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7. 旅立ち
「別れの挨拶は済ませたのか」
「そんなのはしないよ。……できるわけ、ないじゃないか」
「…そうか」
日の出、ダグラナはノーラッドに言われた通り、村の入り口へときた。
ダグラナが来たときには既にノーラッドが入り口の門柱に寄りかかって座っていた。リリマがノーラッドの肩でこっくりこっくりしている以外、周りで誰かが近寄ったり、動いたりという気配はない。
「……1人、いるみたいだな」
「っえ」
ノーラッドが村で1番大きな木を見すえて、そう言った。
「出てきな」
ノーラッドがそこに向かって一声かけると……
「…ダグラス!!」
木の影から出てきたのはダグラスだった。
気まずそうな表情を浮かべ、目線はダグラナから大きく外れている。
「な、なんでここにいるの…! まだみんな寝てるはずだよね?」
しかしダグラスはダグラナの問いに答えず、ポツリと呟く。
「……昨日。あんなことになっちまって、あのまま…別れるのが嫌…だっ、た……から」
「ダグラス…」
「なぁダグラナ!! 考え直せよ! 何もこんなに急いで発つことないだろ?! ……な?!」
ここで初めてダグラスの焦点がダグラナに合う。
ダグラスがダグラナを「ダナ」でなく「ダグラナ」と呼ぶ時は、決まってダグラスが相当思い詰めている時だった。
ダグラナの決して肉付きのよくない肩をガッシリと掴み、必死で訴えかける。
「ダグラス」
「なぁダグラナ!!」
「…っダグラス!!!!」
あたりを強い風が通り抜け、木々がザァッといななく。
ダグラス、と呼ぶダグラナに答えず訴え続けるダグラスに、ダグラナが大きな声をだす。
「…! な、ん……だよ」
「なぁ、ダグラス。
……そんな芝居、やめてよ。悲しいよ、最後なのに」
「っ!」
「僕が分からないと思った…? まさか、最初から気付いてたよ。………昨晩からね」
「んなっ」
「ねぇダグラス。お願いだから、本心を言って。君が僕に本当に言いたいこと、そんなじゃないでしょう?」
悲しそうな笑みを浮かべるダグラナに、唖然としたダグラス。
思わず数歩、後ずさる。
「な、なにいってんだ。…ダグラナ、だから」
「ダグラス」
「考え直せって俺は言ってんだ。お前、確かに魔力は覚醒しちまったけどよ」
「ダグラス」
「でも、……でも!!」
「ダグラス!」
わなわなと震えだすダグラス。そのまま顔を手で覆いながら、地べたに座り込む。
「……だって、だって仕方ねぇだろぉ……っ?! 言えなかったんだよ!! お前が好きだって言ったら今までの関係も何もかも全部!!! なくなっちまいそうでよぉ!! 怖かったんだよ……お前が、俺から離れていくのが………!! ダグラナァ!」
覆った手の内からボタボタと大粒の雫が溢れだす。
それはまだ朝日の浴びぬ冷たい村の地面に吸い込まれ、滴っては吸い込まれ。
無情にも、まるで今までのダグラスの感情を表しているようだった。
「好きだ…ダグラナ。誰よりも、何よりも。ずっと…」
そこまで言って顔を上げたダグラスの視界が突然暗くなる。
そしてダグラスを包み込むダグラナの両手。
「ダ…グラ、ナ…?!」
「ありがとうダグラス、言ってくれて。
最後の最後に残酷なことをしてごめんね。でも言って欲しかったんだ。直接、君の口から」
「ダ、ナ」
「僕もダグラスが好きだったよ。でも君とは違う。……それでも、誰よりも大切だったよ。…じゃあね」
ちゅ、と額に軽くキスをおとす。
もう…行かねばならない。
時は巡る。
共に人も巡る。
過ごした時は消え去ることはない。
思いを胸に、今。
「ダナ……!」
「バイバイ、ダグラス!!! 皆によろしくね!」
振り向きざまに見えるダグラスの顔は、朝日に照らされていてよく見えなかったが、泣いてはいなかった。そう、ダグラナは思った。
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