655 / 690
新たな旅路 33
部長(雁部 乙矢)side
初めて会ったときからあいつのことは気になってた。
見た目がチャラついてる奴で本当にやる気があるのか謎だった。
それは他の部員も同じようで浦部を深く知ろうというものは誰1人としていなかった。
まぁ。グランドに出ただけで黄色い声をあげられる浦部に嫉妬していたのだろうけど。
浦部はその声に答えるようにそちらに顔を向け手を振っていた。
その浦部は誰よりも技術が優れていて一年だというのにスタメンに選ばれた。
どんなに嫌いでも実力は認めるしかなかった。
そんな浦部は誰よりも早くグランドに現れ準備を始めていた。
これは俺しか知らない。実は彼は影の努力家で朝も練習していた。
元々出来た訳じゃない。努力の賜物だったんだとそう思うとあいつの見方が変わった
「おはよ。浦部」
「あー!おはようございまぁす。雁部部長」
「お前いつもこんな朝早くから練習してんのか?」
「俺あんまり上手くないから練習してみんなに追い付かないとならないと思って。まさか選ばれるなんて思ってなかったからすげー緊張してます。」
「お前は他のやつよりうまいよ、それは俺が認めてやる。努力しなけりゃどんなにうまいやつだっていつか綻びが出てくる。だから自信をもて」
「ありがとうございます…」
「浦部?」
「あれれ?何で…」
浦部が涙を流していた。
「…」
綺麗すぎて息を飲む。これが俺が惚れた姿。朝日を背に受け涙している姿はもう…言葉もでない
「俺…そう言ってもらえたことなくて…初めて言われて…うれし…ありがと…部長…」
抱き締めたい…その衝動を必死で抑え暫くみいっていた。
そんなときあれが起こった
「ちょ…やめて!」
浦部の声が響く
「うるさい!どうせお前その顔と体で監督に取り入ったんだろ!」
「は?何のことです?」
「とぼけるな!じゃなきゃお前みたいなのが一年で選ばれるわけない!」
「…あいつら…」
その日俺は生徒指導室で進路について相談をしていた。進路相談室は三階。俺はかなり耳がよくて回りから地獄耳だの妖怪だの言われることが多い。だから会話は聞こえていた。今やつらがいるのはこの校舎の真下にあるほとんど人の来ない中庭…そこに服を脱がされた浦部の姿とそれを囲む選ばれなかった上級生の姿。
「雁部。どうした?」
「先生!あれ!俺止めてくる」
「ちょ!おい!」
教師の制止を聞かず走り出す
下に辿り着くとそこには小柄な生徒が浦部を守るようたっていた。何故か部員たちが倒れている
「お前ら!何やってるんだ!」
「ひっ…部長…!」
「お前ら…自分達が選ばれなかったからって浦部に当たるな。お前らはどんな努力をした?浦部は誰よりも早く部活に来て準備をしている。朝も朝練の無い日だって練習しにきている。誰よりも努力している。それを取り入った?ふざけるな!悪いけどそんなやつらをこのまま見過ごすことはできねぇ。覚悟してろ」
座り込んだままの奴等に背を向け浦部を振り返る。そこには先程の小さいやつが手当てをしている姿があった。
「浦部…大丈夫か?」
「部長…大丈夫だよ。立野が助けてくれたから」
そう言って立野をみるとニコリと花のように笑う。いやいや…可愛すぎやしないか?浦部と並んでもおかしくないほどの可憐さを持ったやつ。こいつ知ってる…
「立野 撫子」
「はじめまして。部長さん。僕のことご存じなんですか?」
「うちの父が社員として雇ってもらってる…いつもお世話になってます」
「あははっ!そうなんですね。失礼ですがお前は?」
「雁部 乙矢」
「あぁ!!雁部部長の息子さん!父が大きな信頼を寄せています。いつもありがとうございます」
口を動かしながら手も止めず器用に手当てしていた。
「浦部くん。立てる?」
「あ。うん」
「練習行くんでしょ?無理はしないでね」
「はぁ?お前こんなことあったのに出る気か?休んでいいぞ」
「ダメです…1日でも休んだら…体が鈍ってしまう…だから参加させてください」
深く頭を下げる浦部をこいつらはどんな気持ちで見ているのだろう…
「わかった…」
ここからは坂を転がり落ちるように俺は浦部に引かれていった。
でも俺は男…こんな気持ち伝えられるはず無い…と思っていたのだが…
告白しないで後悔して泣いているこいつの姿を見ていたら焦った。やらないよりやった方がいい…そう思い告白した。
少し頬が染まった気がしたのは俺の気のせいではないだろう…少しずつ…お前の思いが俺へ向くことを願い背中を見送った…
ともだちにシェアしよう!