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新たな旅路 43

翌日遥さんの自宅兼スタジオに行くとお手伝いさんが迎えてくれた。 「お久しぶりでございますね。撫子さま」 「こんにちは。」 幼い頃遊んでくれたことのある人だった。 「遥菜さまは既にスタジオに入られています。どうぞこちらへ」 案内された先に真剣な表情をした遥菜さんがいた。 真剣な眼差しで作業している遥菜さんに暫く見惚れていたら視線に気付いたようだ。 花のように明るい笑顔を浮かべてヘッドホンを外しこちらへ来てくれた 「いらっしゃーい。撫子ちゃん」 「こんにちは。すいません。うちの父の我儘に付き合わせてしまって」 「大丈夫!じゃあ早速…」 何度か聞かせて貰った曲。詞は母が書いている。 「できそう?」 「はい。」 歌い終えると満面の笑みを浮かべた遥菜さん。 「撫子ちゃん。良かったよ!君がいいなら君の声で生きたい。勿論本名は伏せるよ。桔梗くんの息子ってことも」 「遥菜さんが良ければいいですよ。名前はそちらでつけてもらってもいいですか?」 そうしてCM曲は完成した。 暫くして画面から流れる自分の声にどこか恥ずかしさも覚えながら過ごしていた。 その曲が多くの反響を呼びとうとう僕の素性が知られてしまった… 「…困る…学校に凄い来るんだけど…マスコミやらレコード会社の人が…どうしよう…」 「もういっそのことデビューしちゃう?」 「いや…それは勘弁してほしい…」 そもそも人前に出るのが好きではないから困る… それから数ヶ月… 「撫子くん」 「りんさん?」 「お久しぶりです。どうしたんです?学校までわざわざ」 「わかってるくせにぃ…うちでデビューしよ?」 「いえ…お断りします…」 「だめかなぁ?」 「はい…凜さんのこと好きですけど流石に人前に晒すなんて…無理です…」 「…でもね…勿体無いのよ。遥と霞 桔梗の合作だもの」 「…それは重々わかってるのですけど…」 「ならさならさ。テレビとかは出なくてもいいからCDだけ出そ?」 「…えと…」 「ね?」 凜さんは母の事務所の社長さん。幼い頃からモデルだの子役だの何度も何度も誘ってくれていた。でも…僕は母と違い特別な才能を持っているわけじゃない。 それに母の名前があるから売れるとかそんなの勘弁してほしい 「…だめ?」 「…」 しかし今回ばかりは凜さんも譲らない…結局根負けした 「媒体には出ませんからね」 「わかってるよ。ありがとう」 そうして僕の声は全国各地に広がっていった

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