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第15話
遥のプロフィールは一切公表されていない。この正体を知るのはおそらく事務所のごく一部の者に限られるだろう。それが今目の前にいるチャラ男なんて誰が思うだろうか。
「よくわかったねぇ」
「こんなに心が震える曲なんて遥にしか書けない。俺は満遍なく音楽は聴くが、すごいと思う曲は全部遥の曲だった」
「何か面と向かって言われると照れる」
「何でそんな奴がこんなところにいるんだ?」
「両親との約束。曲を作ることに反対こそないが万が一曲が書けなくなった場合俺には何も残らない。だったらせめて他に保険をかけて欲しい。取り敢えず高校は出てくれって言われて。でもレベルの低い学校じゃ意味はない。だからここら辺で1番敷居の高いここで結果を残せって。音楽以外のことにも向き合って欲しいってさ。俺の爺さん、作曲家だったんだ。時藤 冬彦知ってる?」
時藤 冬彦と言えば世界各国で活躍してきた作曲家だ。生まれた頃から音楽漬けの毎日を過ごしていたと聞く。しかし公演先で事故に巻き込まれ体が動かなくなってしまった彼は壊れていった。音楽を思うように奏でられないその体で必死にもがき苦しむが活路を見出せないまま息を引き取ったと言う。
「その爺さんの姿を見ていられなくて、だから俺には他にも目を向けて壊れないで欲しいって」
「そんなお前がなぜただの冴えない高校生の俺にこだわるんだ?俺に渡したところでこの曲はこんなに大切にしているのに日の目は見ないぞ」
「何でかな?何かがお前にはある気がした。1番はやっぱりその声かな。何人もプロの声を聴いてきたがどうしてもこの曲を歌って欲しいやつに出会えないんだよね。特別大切にしているからこそ自分の納得行く相手に渡したい」
「て言うかお前俺に正体を明かしてよかったのかよ。完全非公表だっただろ」
「片桐なら騒いだりしないし知ったことで何もしないだろ?変に近くにいる奴よりお前は信用できるから」
「お前さ、今日初めて話したような奴を簡単に信用しないほうがいいと思うよ」
「え?誰かに言うの?」
「いや。言わないけど。もし俺が最低な奴だったらお前に一生寄生してしまうかもしれないんだぞ」
「片桐なら大丈夫」
「お前なぁ…」
「リスクをおかしてでもどうしてもお前の声が欲しかったからさ」
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