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第63話
頭から少し熱めのシャワーを浴びる。浴室にある鏡が俺を写し出している。
全身に散らばる赤い花弁。痛みを伴う噛み跡。強く突き立てられた爪の後…拘束していた鎖の後…一つ一つゴシゴシ洗う。そう簡単に消えるわけがないのに。
下に向かって体を洗い進める。自分の後孔に指を入れなずなの吐き出した物を掻き出して行く。
後から後から溢れ出してくるなずなの欲が先程までの行為が現実だったということを記していた。
数々の紅い花も、流れ出す欲もなずなの色々な想いが詰まっているのだろう。
俺へ対する憎悪、自分の代わりに選ばれた者への妬み…自分を弄んだ使用人達への怒り。傷付けられた自分の哀しみ…自分の醜態を伝えた者への恨み。保科さんを傷付けた自分への罰…そして保科さんへの深い愛情…
自分の意思とは関係なく溢れ出してくる涙は何だろう…叫び出しそうな声を押し殺す…
立っていられなくて蹲り膝を抱いた…
「朝陽さん…」
無意識に発した愛しい人の名前は水の音に掻き消された…
「せいくん!?」
いつの間にやってきていたのだろう。浴室に蹲る俺を服が濡れるのも構わず抱き締める朝陽さんに嬉しさと罪悪感と色々な感情が入り混じる。俺は膝を抱えたまま何も言えなかった…
「せいくん。僕は何があったのかわからないけれどせいくんへの気持ちは何も変わらない…せいくんがここに存在している限り変わらない…せいくん…僕を見て?」
朝陽さんの苦しそうな声に居た堪れなくなりゆっくり顔をあげる。朝陽さんは俺の頰に手を添え優しく口付けた。
「せいくん。せいくんが好きだよ。せいくん以外は何もいらない」
そう言うと朝陽さんは再度唇を重ね俺の口内に自分の舌を侵入させる。俺の舌を探し当てると逃さないとばかりに絡めてくる。何度も何度も角度を変え繰り返される行為を止めることもせずただただ受け止めた。
「せいくん。辛かったね…。苦しかったね…」
俺と一緒に涙を流してくれる愛しい恋人はやはり綺麗だった。2人で一頻り泣き、立ち上がった。
明日からまた進めるように…
びしょ濡れになった朝陽さんを着替えさせ同じベッドで抱き合って眠った。
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