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第67話
一人一人に頭を下げる。母と社長が上手く言ってくれていたのか大きなお咎めはなかった。
何があったのか聞いてこない母と社長には感謝している。
まだ話す勇気は持てないでいたから。
遅れてしまったドラマや映画の撮影のスケジュールは組み直され明日からはとてもハードになりそうだった。
「明日からって平気なの?」
「これ以上迷惑はかけられないでしょ。丁度冬のシーンの撮影だし見えないから…」
まだ赤い手首と首筋を撫でた。信用しているスタイリストだし大っぴらにはならないはずだから。
念の為前もってその人に会いに行く。
「彩芽さん。心配かけてすいませんでした」
「よかった…戻ってきてくれて…」
「明日からよろしくお願いします。あの…相談が…」
「なぁに?」
彩芽さんは背が高く一見女性かと見紛うくらい美人だ。俺も初めて会って暫くは女性だと信じていた。だがある時それが違うと知り衝撃を受けた。
「あの…これなんですけど」
服を脱ぐと彼方此方に散らばった紅い花と爪の痕、手首の痕を見せる。
「まぁ…なんてこと…そう言うことだったのね…」
「はい…だから…」
「大丈夫。わかったわ。当分はメイクも私がするわね」
「はい…お願いします」
「体きついでしょ。これあげるわ。大丈夫よ。変なものじゃないから」
「ありがとうございます」
彩芽さんは医師免許や薬剤師など多数の資格を持っているのでそれが何か直ぐわかった
「この仕事していると色々な人が居るから極力手元に置くようにしているの。
でもせいちゃん。無理だけはしちゃダメよ。大切な人たちが心配しちゃうから。あなたは昔から人に頼らな過ぎるし我慢し過ぎる。辛い時は辛いって叫んでしまってもいいと思うわ。あなたは人なのだから。お人形でもなんでもないのよ。あなたは相馬 星夜という誰とも変わらない唯1人の人間。忘れないで。あなたが苦しいと一緒に苦しむ人がいるってこと。辛いことは一緒になって傷を背負ってくれる人がいるっていうこと。あなたはその人たちに甘えてもいいと言うこと。私だってそのうちの1人よ」
「彩芽さん…うん…ありがとう…」
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