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第77話

朝陽さんがマンションに住み始めて暫く、季節は変わり街はイルミネーションで彩られ、道行く人は皆肩を寄せ合い、足早に過ぎ去って行く。 仕事が忙しくて朝陽さんと過ごす時間が僅かしか取れず日々イライラしていたが朝陽さんに宥められ渋々現場へ行くのが日常となっていた。 現場に近付けば切り替えもできるのだが其処に至るまでがかなり不機嫌なので母は苦笑していた。 「星。もう直ぐ着くよ。切り替えて」 「わかってる」 「もう…しょうがないなぁ…明日は久しぶりにオフだから朝陽くんとゆっくりできるよ。そんな顔しないの。今日のシーンも星がリードして一発で決めちゃいなさい」 今日は特に不機嫌だった。というのも俺が苦手としている…というか大嫌いなアイドルである関山 藍乃とのキスシーンがあるからだ。 関山はとにかく演技が下手だ。セリフだって殆ど頭に入っていない。プロ意識の欠片も無い奴だ。関山がやりやすいように何度も何度も繰り返し台本が書き換えられていく。時間になっても現れないことも多く、遅れても悪びれもせず踏ん反り返っている。 そんな関山が人気の理由はその見た目だけだろう。最近の女優やアイドルの中でもズバ抜けて容姿が整っており、スタイルもいい。 共演者キラーと言う異名をもち、事実落ちなかった男はいなかったらしい。共演者のみならず監督やプロデューサーなど関係者という関係者全てを落としてしまうものだからタチが悪い。目が合えば皆虜になるそうだ。お陰で皆の目にはフィルターがかかりどんなに下手な演技でもうまく見えてしまうのだろう。 人の中に土足で上がり込もうとする関山は俺にとっては嫌悪の対象でしか無く、貼り付けている自分の笑顔を剥がしてしまいたいくらい嫌だ。 ただ関山の所属事務所はかなり大手なので、もし関山の機嫌を損ねようもんならうちの事務所はタダでは済まないだろう。 「はぁ…もう本当に嫌だ…朝陽さんが足りない…何であんなのとキスシーンなんかしなきゃなんないの…ただでさえ今までの撮影で手ぇ繋いだり腕組むだけでも気持ち悪かったのに…そもそも何で取り合わないとなんないの?あぁぁぁ!!役でも嫌だ…帰りてぇ…」 「ここまでなるのは珍しいわね…そんなに嫌い?」 「当然…そもそもみんな何で何とも思わない訳?あんな下手な奴のために何で何回もセリフ変えられないとなんない訳?意味わかんない…それにヘラヘラしてる人たちも意味わかんない」 「星。今後は極力一緒にならないようにするから今日までは耐えて」 「わかってるけどさぁ…」 「ほら!顔。あんたはプロなんだからしっかりしなさい!」 「はいはい…じゃあ行ってくる」 「おはようございます。今日もよろしくお願いします」 気合を入れ挨拶をした

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