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第159話

遠くで声が聞こえる。 誰かが会話をしているのだろう。 辺りを見渡してもそこは暗闇で一筋の光さえ見えない。 終わりのないような暗闇を闇雲に歩き続ける。 声のする方へ どうして自分がここにいるのかもわからずただただ歩くしかない暗闇を休むこともせず進む 進んだ先に何があるのかもわからないのに 「せいくん。戻って来て…」 聞き覚えのあるその声に心が躍る。聞き間違えるはずがない愛しい人の綺麗な声 駆け出した先に求めていた光が見える その光へ手を伸ばした。次の瞬間俺は光に包まれ冷え切った掌に温もりが宿った 光が眩しくて目を細める 「せいくん」 愛しい人の声にゆっくりと目を開ける。 「おはよ…せいくん…」 涙で潤んだ瞳を見詰める。溢れそうな涙を拭ってあげようと手を伸ばすが動かない。抱き締めてあげたい。キスしてあげたい でも自由が利かなかった 「せいくん…良かった…」 俺が泣かしてしまったんだと思うと胸が痛む この様子から随分と心配させてしまったんだろう その後まわりが騒がしくなる。

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