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第173話
朝陽さんは当日かなり緊張しながら出て行った
たまたま俺も近くで仕事だったので様子を見に言った。
外から見る朝陽さんに見惚れながら仕事ぶりを見ていた
神楽坂先輩は朝陽さんに寄り添いながら微笑んでいた。
やっぱりお似合いの2人だなと思いながら見つめているとスタートが掛かる
神楽坂先輩は主演は初ではあるが場数は踏んでいるので1人だけ纏うオーラが違って見えた。
次は朝陽さんのセリフ。
今日まで必死に練習していたのを側で見ていたのでこっちまで緊張する
ほらね…
朝陽さんはもう朝陽さんではなく役の本人に成り代わっていた。
無意識の才能。
演技でも発揮できるこの人を見ながら、自分の中の何かが熱くなる
これが嫉妬なのかもしれない
仕事から帰ってきた朝陽さんはまだ役が抜けきれていない
俺のことは見えていないようなその表情に鳥肌が立つ
たまらず朝陽さんを抱き、声を掛けた
「朝陽さん。お帰りなさい」
まだこちらを見ない朝陽さん。胸が苦しい
「…あっ…せいくん」
「おかえりなさい」
「ただ今」
やっといつもの表情に戻り柔らかい笑顔をこちらにむけてくれた
「朝陽さん。かなりよかったですよ。初めてとは思えないくらい。知らない人がそこにいて不安になりました。神楽坂先輩の事本気で好きになっちゃいそうな気がして」
「不思議だよね。役作りって。僕はもう自分ではなかった。遠くから僕の演じる人を見ているようだった」
「朝陽さん。ちゃんと戻って来てくださいね」
「うん」
もちろんこのドラマは好評となった
朝陽さんはモデルという道から離れていき役者として活躍する事が増えた
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