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第275話

出発の日がやってきた。 カイは残る決断をした。 自分自身を見直したいと言っていた 見送りにも来なかった 現地にいる間連絡もお互い取らなかった 仕事にとことん集中し時が過ぎて行った 少しの空いた時間に浮かぶ顔は… もう心は決まっていた 帰国したら一番に会いに行こうと決めていた ある日出演者が体調を崩しドクターストップがかかってしまう。 ラストの重要なシーン。彼は壊れそうな体を必死で張りどうしても出たいと話していたのだが叶わなかった。泣く泣く帰国した彼を見送る ほとんど撮り終わっていた部分の穴をどう埋めるのか… 時間はもうないのだが急遽代役が立てられることに決定した 撮り終えた彼のシーンを如何に違和感なく繋ぐのか… 考えあぐねいた監督は決断を下す 呼ばれてやってきた俳優は予想通り朝陽さんだった 「華稜院さん。急な代役ありがとうございます」 監督は深々と頭を下げる。 セリフはここに来るまでに全て頭に入れてきていた朝陽さんは難なく撮り終えた 「久しぶり。せいくん」 そう言う彼の指にはリングは付いていなかった。 朝陽さんを見て懐かしさと愛おしさが込み上げる。ほんの少し会えなかっただけ。ほんの少し声を聞かなかっただけ

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