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第295話
朝陽side
「俺…」
涙を流しながら霞くんは部屋を出ていった
「せいくん…」
「お久しぶりです。朝陽さん」
「あの…」
「あ…すいません…」
抱きしめたまま話そうとするせいくんに戸惑いつい身を捩ってしまった。まだこの腕の中にいたい気持ちは沢山あったけどでも…せいくんはたまたま通りがかって助けてくれただけ…今はカイさんの…
「ありがとう。今日はどうして事務所に?」
「隅田がどうしてもまた歌って欲しいって依頼を凛ちゃんにしたみたいで話を聞きにきたんです」
「復帰するの?」
「まだ決めてません…カイと相談してから…決めようと思って」
「カイさんと仲良くやってるんだね」
胸が痛い…本人から直接聞くとその痛みは思ったよりきつかった
「もしかしてさっき霞が話してた恋人って十夜さんですか?」
「恋人ではないけどね。家から一緒だったのは十夜だよ」
「…そうですか…」
せいくんの顔がちょっと曇った気がした。でもきっと気のせいだと思って会話を続けた
少しでも長くせいくんと過ごしたくて
僕は本当に最低だと思う。十夜の気持ちを知りながらせいくんと過ごしたいと思っているのだから。カイさんがいるってわかっているのにせいくんを引き止めてしまっているのだから…
「朝陽さん?何で泣いてるんですか?」
「え…?」
全く気付いていなかった
「思ったより怖かったのかも。気が抜けたみたい…」
そんなの嘘だ…せいくんといることがうれしくて…でも悲しくて涙が流れているだろうから
「すいません…もっと早く駆けつけることが出来ていたら…」
「来てくれて本当にありがとう。僕そろそろ行くね」
これ以上顔を見られたくなくて踵を返す
「朝陽さん」
「ん?何?」
「…頑張ってくださいね」
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