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宵闇の向こう側…5
遠くで物音がする…あの人が来てくれたのかな…
ゆっくり手を伸ばす…温かい…
目を開けるとそこには…あの人は居なくて…現実に引き戻された…
「大丈夫ですか?なずなさん」
手を握ってくれていたのは俺よりもいくらか年下の男で…俺の頬を撫でた
「体辛いですか?」
遅れて頬を伝う温かいものに気づく…
あ…泣いてたんだ…それを拭ってくれたのか…
「ごめんなさい…」
「ご飯食べられそうですか?お粥出来てるけど…」
せっかく作ってくれたのに食べないのは申し訳なくてコクンと頷くと彼は柔らかく笑った
何て綺麗な子なんだろう…
「熱いので気を付けて下さいね」
彼の作ったお粥は彼のように温かく優しい味がした
「薬置いておくので飲んだら寝てくださいね」
「ねぇ。本当にいいの?お金払ってるのに…何もしなくて。しかもラストまでって…」
「人気者のなずなさんにやっと会えたんだから同じ空間にいられるだけで十分ですよ」
「面白い子だね」
「そうですか?」
「ねぇ。次はいつ利用するの?」
「決めてませんけど」
「じゃあさ。週末は?これない?」
「これなくもないけど」
「僕ね。週末空いてるの。だから予約入れておいてよ。こっちの都合だからお金はこっち持ちでいいし」
「お金は別にいいです。でも珍しいですね。週末空いてるなんて」
「そんな日だってあるよ。ちなみに時間は17時から大丈夫だから。ラストまで入ってないし。君がいいなら17時からラストまで君の時間もらってもいい?あぁ…でもさすがに負担大きいね…」
「そんなに時間もらってもいいんですか?」
「今日のお礼も兼ねてるし。何でもしてあげるし何されてもいいよ。それまでに熱下げとくから」
「じゃあ入れておきますね。でも無理はしないでくださいね」
「ありがとう」
「今日は寝ててくださいね。あ…添い寝してもいい?さっき震えてたから。俺体温高いんで」
「いいよ」
週末は家族の命日で休みを元々取っていたのでそもそも予約を取っていない。でもこんなに誰かに優しくしてもらったのは久しぶりで自然とそう提案していた
片付けて戻ってきた彼が遠慮がちにベッドへ潜り込み僕を抱き締めてくれた
「あったかい…」
「よかった」
ふわりと笑う彼に身を預け眠った。
僕より大きくて温かい彼に全てあげたい…
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