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あなたに会えたから 1

幼い頃から歌うことが大好きだった。 病弱だった母が俺が歌うことで笑ってくれたから夢中で歌った そんな母が亡くなった。俺が10歳の頃だった 俺には歌だけが残った。母の葬儀も終わり身寄りのなかった俺は施設に行くことになった 施設の人はみんな優しくてとても居心地が良かった 俺は相変わらず歌っていた。施設の近くにある河原が俺のお気に入りの場所だった。 そんなある日のこと 「歌すごくうまいね」 声をかけてくれた人がいた。褒めてもらえたのが嬉しかった 「ありがとう」 「歌手とかなんないの?いいと思うけどな…」 「歌手かぁ…でも現実問題無理じゃないかな…俺かっこよくないし」 「お前子供らしくないな…現実問題って…子供は夢を追うもんだ」 そう笑いながらバッグの中からピンを取り出し俺の伸ばしたままの前髪に刺した 「何?」 「やっぱり…お前可愛い顔してるじゃん」 「可愛い?俺男だけど…」 「そんなの見ればわかるよ。でも可愛い」 「えぇ…」 「10年くらい経てばかっこよくなるんじゃない?」 その日を境にそいつ…立野 莉音が俺を構うようになり毎日のようにその河原へ来てくれるようになり俺は莉音のために歌っていた もうその頃俺は莉音に惚れていたんだと思うがまだ子供だった俺にはわからなかった。 そんなある日のこと莉音の母親が倒れ入院したと聞いた。以前から何度も繰り返していると聞いていた 「莉音」 「何?」 「大丈夫?」 「大丈夫。最近あまり眠れなくてさ」 「お母さんのこと?」 「うん。大したことはないって言ってるんだけど…あ!そうだ。桔梗。歌。お前の歌聞かせてやってくれない?」 「は?」 「うちの親歌が好きでさ。お前の歌声聞いたら元気になるんじゃないかな?って思って」 「はぁ?」 「うん。そうしよう。今から行こう!」 「ちょっ…莉音…」 半ば強引に手を引かれ病院へ向かった

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