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灯火 16
夕燈side
そんな十夜はいつも美那と共に俺たち兄弟の世話をしていた。
朝陽はそんな十夜を見よう見まねでいろいろなことを覚えて行った。俺たち兄弟に馴染めなかった朝陽をいつも気にかけていたのが十夜だ。
可愛い可愛い弟…女の子みたいにまっしろで柔らかい表情をする可愛い弟…だから俺たちだって仲良くしたかったけど突然やって来た弟にどう接したらいいのか誰にもわからなかった
幼かった朝陽は母の死と共にいきなり屋敷に連れて来られ突然多くの教育を受けることになった。
朝陽は元々頭が良かったんだろう。
俺たち兄弟の中でもずば抜けて優秀だった。
だから毎日教育を受け小学校に上がるころにはもう4つ歳上の俺を超え上の兄と同じような知能を備えていた。
朝陽の母親は華陵院の使用人だったらしい。
俺たちの母が死に落ち込んだ父を放って置けなくて話を親身になって聞いていたのが朝陽の母だった。
泥酔し帰宅した父の一度の過ち…その時できた子供が朝陽だった。
父はその責任を取り朝陽の母と再婚しようとしたが珍しく古風な人だったようで身分の大きな違いを理由にそれをこばみ屋敷を出て行った
ならばせめて…と資金援助はしていた。でもそれには彼女は手をつけなかった。朝陽のために取っておいた。
朝陽の3歳の誕生日…朝陽の母親が事故で亡くなった。現場には朝陽のために用意されたバースデーケーキとプレゼントが無残な姿でそこに残されていた…
飲酒運転の車が突っ込んで来て逃げられなかったそうだ。
誕生日の夜…朝陽は家で祖母と一緒にずっとずっと母親の帰りを待っていた。
もう会えないなんて知らないままに…
状況もわからないまま祖母に連れられ霊安室へ連れて行かれる
「お母さん…なんでこんなところで寝ているの?今日はおばあちゃんとみんなで…お誕生日してくれるって言っていたのに…お母さん帰ろ…」
答えるはずもない亡骸に必死で…笑顔で話しかけていた…
朝陽の祖母から連絡を受けた俺たちは家族皆でその姿をただ黙って見詰めていた
俺たちだって状況なんてわからないけれど死というものは理解できた。
そこにいる小さな子が笑う姿に涙が溢れた…
その翌日突然知らない家へ連れて来られた…戸惑うのも無理はない…好きだった祖母とも急に会えなくなるし保育園だって勝手に変えられるし…どれだけ寂しかったのだろう…でも朝陽は笑っていた…
一度だけ聞いたことがある…君はなんでいつも笑っているの?
「お母さんが僕の笑った顔で元気になるって言ってたから。みんなにだって元気を分けられるよっていってたからだよ」
とても素敵な母親だったんだと思う…だからこそ父はいつも近くで見守りいつしか本気で恋をした…
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