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第3話
(それに遊びは終わってからにしろって……)
そっちは遊びかもしれないが、こっちは手足が震えるほど怖いのに。
雪は小刻みに震える自分の手をぎゅっと握りしめて震えを殺す。
「戻れ。規則違反者には罰則だぞ。それとも聴聞会にかけられてもっと厳しい処分をされたいのか」
「すんませんっ!!」
会長と呼ばれた山王の持つ威圧的な雰囲気に気圧されたのだろう。
雪を追い回していた生徒達がバタバタと足早に去っていく音が聞こえた。
雪は息を殺して身を潜める。
山王に見つかるのが怖いからだった。
なんせ肉食組を代表する会長だ。近くにいなくても匂いでわかる。
圧倒的強者の匂いだ。
まさか会長が雪を追い回した奴らのように、雪を嬲りものにするとは思えないけれど、身体が緊張で動かない。本能がじっとしていろと雪に命令する。
(俺には気付かず帰ってくれ、会長~っ)
しかし願い空しく、山王がこちらへ歩いてくるのがわかる。
(ひっ……!こっちくる……)
雪の耳に届く山王の足音がどんどんこちらへ近づいてくるではないか。
まさか取って食われはしないだろう。まさか、まさか会長と呼ばれている男が草食いじめをする筈がない……!
そう自分に言い聞かせるが、身体がとにかく言うことをきかない。
立ち上がり、事のあらましを伝え、この場を去ればいい。
しかし身体は動かず、ただそれだけのことが出来ないのだ。
雪はいつの間にか恐怖で垂れてしまった黒い耳を両手で押さえ、小さく丸く縮こまる。
足音は雪の目の前でぴたりと止まった。
「お前、草食組の生徒か?名前は?」
(み……見つかったーーーーっ!!!)
「は、はひ……。く、くろと……ゆき……です」
雪が恐る恐る顔を上げると、雪の目の前に立つ会長と呼ばれた男、山王雷太(サンノウライタ)が金色の三角耳を同じ金の髪と一緒に後ろへ撫でつけた。
細身だがかっちりとした身体、長い手足、切れ長の鋭い目。
一見モデルが芸能人かと見間違うほどの美形だが、威圧感が半端じゃない。
「あいつらに何かされたのか?」
「い、いえ……」
(いやそこはちゃんと追い回されたって言おうよ?)
「だったらどうしてそんなに怯えているんだ?」
(それはあんたが怖いからだろーーーっ……!)
なんて、そんなこと言える筈もない。
雪は下唇をきゅっと噛んで俯いた。
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