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第6話
雪はきょとんとした表情で山王を見上げた。
なんだこの手は。
もしかして掴まって立ち上がれということなんだろうか。
まさかこのライオンの手を振り払うなどと恐ろしいことが出来る筈もなく、雪はおずおずと自分の手を山王の手へ向かって伸ばす。
ゆっくりした動作に痺れを切らしたのか、山王の手が更にぐっと伸びてきて、気が付くと雪の手首が山王にぐっと握られていた。
「……っ!」
雪の頭は瞬時に真っ白になり、その後物凄い勢いで脳が混乱し始めた。
自分はこの後どうなるのか。このまま手首を握りつぶされてしまうんじゃないだろうか。
それともぐっと引き寄せられて首筋を噛まれるのだろうか。鋭い牙を立てられて頸動脈を噛み切られたら一貫の終わりだ……!
「ひっ、ひいぃっ……!」
「ひぃ……?」
「お願いします!噛みつかないでください!俺は食べても美味しくありません……!!!」
雪はぎゅっと瞼をきつく閉じて小刻みに身体を震わせている。
それを見た山王は顔を強張らせ雪の細い手首を握る力をふっと緩めた。
「……そんなに俺が怖いのか?」
ここで怖いと答えたらどんな目にあうのだろうか。
雪は咄嗟にぶんぶん首を横に振る。
もはや何をどう答えていいのか全くもってわからない。
「はー……、そんなに草食組から嫌われているとは……」
雪が恐る恐る目を開けると、山王は反対の手を額に当てて困り果てたような表情をしていた。何か自分はヘマをしてしまったのだろうか。山王が困っている。
動揺した雪の視線に山王が気付き、山王はすっとしゃがみ込んで雪に目線をぴったり合わせる。
「……怖がらせてすまない。だけどお前は何か誤解している。俺たち肉食組は何も人肉を食べようなどとは思っていない。食の好みは確かに肉に傾倒しているかもしれないが、ちゃんと食材として売られている家畜の肉を食べるんだ。俺は決してお前を食べたりしない」
「ほ……本当に?じゃ、じゃあ……、俺のこと舐めたり、ふ、服を脱がしたり、お尻揉んだり……絶対しない……?」
「ん?なんだそれは?お前、こっちの誰かにそんなことをされたのか?」
「……」
雪は口を結んだまま押し黙る。
これまでも散々な目にあってきた。過去を思い返せばそんなことばかりだった。
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