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第9話

これでやっと草食組へ帰れる。 「よし行くぞ」 雪はぼうっと山王を眺めていたが、山王は攫うように雪の手を取って歩き出した。 「わっ、え、何……」 自分の手はどうして掴まれているのだろう。 大きな手にしっかりと握られている。温かい山王の体温が雪の冷たい手にじんじんと伝わってくる。 小さな子供じゃあるまいし、どうして手を繋がなければならないのだろうか。 頭の中に疑問符を思い浮かべる雪などおかまいなしに、山王はずんずんと歩いていく。 山王の歩みは脚の長さに比例して一歩一歩が大きく速く、雪は少し小走りしなければ並んで歩けない。 それも仕方ない。授業中だし急いでいるのだろう。 「っ……」 引っ張られるようにして歩いていたが足元に隆起する木の根に躓き雪の体がかくんと前のめりになってしまった。 それに気付いた山王が歩みを止める。 「大丈夫か?悪い。歩くの速かったな。お前はウサギだから速いほうがいいのかと思ったんだ」 「何だそれ。……でも確かに走ったら俺の方が速いと思うけど」 「まぁそうだろうな。お前は短距離型だろ?俺は長距離が得意だぞ」 「ふうん。あのさ、この手いつまで繋いでればいいの。確かに俺はあんたから見て頼りないと思うけど、ここまでしなくても大丈夫っていうか……」 雪は何となくずっと繋ぎっぱなしになっている手が気になって気になって仕方ない。 山王は頭一つ分高い身長で雪を見下ろす。 「伝わってくるんだ。お前の緊張が」 「俺の緊張?」 「追いかけられたこと、よほど怖かったんだろう?木々の揺れる音や、小動物の鳴き声にさっきからお前の手がびくびくしている」 「はっ……!?そ、それは、怖いからじゃなくて……。もともとそういう性格なんだよ。音に敏感なの……!」 雪はかぁっと顔を赤くした。 正直に言えば音に敏感なだけでなく、幾何かの警戒と恐怖に怯えているのも事実だ。 しかしこれでも高等部2年の男子。 ただ森を抜けるだけで恐怖に怯えているだなんて思われたくない。 「そうなのか?この学園は完全に肉食と草食とで分け隔てられているから、草食組とは生徒会以外で深く付き合ったことがない。唯一接点のある草食組の生徒会役員達は、お前と同じ草食でもそんなに小さいのはいないし接し方がいまいちよくわからん」

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