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第11話

付いて来られるのなら来てみろ、と挑発的な気持ちがむくむくと雪の中に頭を擡げ、次に振り返った瞬間、山王が追いかけてきていなければ自分の勝ちだと勝手に勝敗のルールを決めた。 「っ、はっ、はっ……」 どれくらい走っただろうか。 足元の障害物を避けながら飛んだり跳ねたり余計な動きが加わったので息が上がるのが少し早い気がした。 元々長距離向きの身体ではないが、自分がこんなに疲れているのだから山王はもっと後ろでへたばっているだろうと想像し、雪は一人ほくそ笑む。 そしてちらりと後ろを振り返った。 「げ……!まじかっ!」 雪の顔が驚きの表情に一変した。 山王は雪に遅れをとることなく軽快な足取りで付いてきている。 しかも雪がぴょんぴょん避けて通った障害物を山王は踏みつぶし、へし折りながら追いかけてくる。 雪が想像し得なかった山王のスピードとパワー。 例えるならば雪は小回りの効く自転車で山王はスタイリッシュなスポーツカーなイメージだ。 しかし小回りの利くはずもないそのスポーツカーは意外と力技で押してくるタイプだった。 「待て!黒兎雪!」 「なんでフルネームで呼ぶんだよ!」 「お前が自分でそう名乗ったんじゃないか!」 「し、知らねーし!っていうか、なんで追いかけてくるんだよ!もう一人で帰れるって言っただろ!」 「こっちにも都合があるとさっき教えただろう!兎は頭が小さい分能無しなのか?」 「はぁっ!?」 「お前はどうせ草食組でもか弱い部類の兎なんだろう。赤子のような甘い匂いと可愛い顔で他の生徒達の庇護下においてもらっていたんじゃないか。ずっと甘やかされ、ちやほやされてきたからそんなに我儘に育ったんじゃないのか。そうだろう」 言うことを聞かない雪を前に山王はぴりぴりと苛立ち、次第に言葉遣いまで荒くなるのがわかる。 雪との距離も確実に詰められてきている。 若干の恐怖を感じたが雪は未だ自分が優勢と思い込んでいた。 「んなわけあるか!つーか、あんたには関係ないだろ!」 「関係大ありだ。今後もこういったことがあったらどうする。他の肉食組の生徒はお前が考えているほど甘くないぞ。お前は自分一人で勝てると思うのか。自分を守れるとでも思ってるのか」 山王は容赦なく雪のコンプレックスをちくちくと刺激しながら雪を追い詰める。 ただ追い詰めるのではなく、雪を獣道へ戻すようにしてじわじわと距離を詰めた。

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