12 / 161
第12話
気付けば雪は獣道へと軌道修正を促された上、腕を後ろから掴まれて脚を止めるはめになったのだった。
雪が肩を上下させて荒く呼吸する傍らで、山王は何もなかったかの様に涼し気な顔をして立っている。
それがまた憎たらしい。
「……っ」
「大人しく言うことを聞け、黒兎雪」
「……そのフルネームやめろ」
「じゃあどう呼べば?」
「呼ばなきゃいいだろっ」
「くろ、とゆき、なのか、それとも、くろと、ゆき、なのか名前と苗字の区切りがはっきりとわからん」
そこは悩むところじゃないだろうと、雪がぷりぷりと頬を膨らます。
「そうだ、自己紹介がまだだったな。知ってると思うが俺は山王雷太(サンノウライタ)だ。知っての通り肉食組の会長をやっている。合同集会などで壇上に上がる機会も多い。お前も俺のことは見たことがあるだろう?」
「さぁ……。生徒会役員に興味なんてないし……」
雪は赤い唇をつんと付きだしたまま、ふいっとそっぽを向いた。
「で、お前は?人の名前を聞いたらそっちも名乗る。それが礼儀というものだ」
「そんなのそっちが勝手に名乗り始めたんじゃないか。俺が自己紹介する義理はな……っ、ふぁっ……」
明後日方向を見詰めたまま雪が反論し始めた途端、耳の根本を擽る様に指で掻かれ、雪の身体から力が抜けて、ふにゃりと膝が曲がったところで山王に抱き留められる。
「お、おいっ!山王!お前何して……っ、んっ、ぁっ」
反論しようにも再び耳の根本を弄られ、雪は山王の胸に縋りついたまま甘い吐息を零しながら身体を震わせた。
「面白いな。実に興味深い。お前の耳は性感帯なのか?」
「なにっ……意味わかんない……っ、てかそれやめろっ……やんっ」
雪は自分の声に驚いて思わず口を手で塞いだ。
毛の流れとは反対方向に垂れた黒耳を撫で挙げられて、下肢から頭の先へ向けて性的な感覚が駆け抜けた。
それを見た山王の手もピタリと止まる。
「や……その……すまない。別にそういうことをしようと思ったわけじゃない。お前があまりにも聞き分けのないことばかりするから……。肉食組の棟でお前の耳が弱いのは知っていたから少し仕置きしたくなったんだ」
「……っ、ふざけんな……っ」
雪は山王の腕の中でふるふると身体を震わせる。
ともだちにシェアしよう!