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第21話
私利私欲の為に黒兎に近づく訳ではない。
そう自分に言い聞かせる。
釈然としない表情の紅を従えて雷太はずんずん進んで行った。
雷太の動きを見て次第に生徒達がどよめき始めたが、雷太はかまうことなく境界線である真ん中のテーブルより先へ一歩足を踏み入れた。
その瞬間ガタンと音を立てて草食組の生徒が立ち上がった。
雷太も紅も見知った顔だ。
草食組生徒会副会長の1年、牛島(ウシジマ)だった。
「どうもお疲れ様っす」
先に声を上げたのは牛島だった。大柄な体と体育会系のがっしりとした体つき、加えてウォーターバックを始祖に持つ牛島は異国の血が感じられる彫りの深い顔立ちをしていた。
「お疲れ様。黒兎と少し話したいんだが、傍へ行くのに何か問題でもあるか」
「黒兎に?あ……いや特に問題は……。ところでどういった用件すか」
本当に問題はないのだろうか。いや違うだろう。
黒兎に近付いてほしくないと牛島の顔にありありと書いてある。
当たり前だが、黒兎を取って喰おうなどと思ったことはない。
それなのに必要以上に警戒されるのは不愉快だ。
雷太が不機嫌そうに溜息を吐いて牛島をじっと見詰めるが、牛島もまた引く様子がない。
雷太相手に平然としているあたり、なかなか肝が据わっている。
「先日、うちの者が黒兎を追い回し、怖い目に合わせてしまったからその謝罪をしたいのだが」
「なるほど。わかりました」
雪に近付く雷太の意図がわかったからか、牛島はあっさりと固かった表情を和らげて席を立ち、雪の座る席まで雷太と紅を案内した。
愛くるしい雪の小さな背中に肌ざわりのよい黒耳がもうすぐそこだ。
生徒達はいつにない光景に目を奪われ、食事も忘れ、雷太達の動向を見守っている。
雪もまた食事に似つかわしくない雰囲気だとやっと気付いたのだろう。
ちょこんと首を横に傾げた。
「何か……騒がしくねぇ?」
「うん。ほんと雪は鈍感だね」
「何だよそれ、どういう」
「後ろ」
雪はきょろきょろと当たりを見回し、振り返る。
振り返った矢先、雪と雷太の目が合った。
大きな丸い瞳をくりっとさせた驚き顔。
正直に言ってしまえば、可愛い意外の何者でもない。
「あ……!!おまっ、や、会長っ。な、何だよ、何か用?」
「食事中に済まないな、黒兎」
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