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第23話
やはりそうかと雷太がゆっくりと座ったまま優也へ頭を下げた。
雪と優也はきょとんとした顔でそれを見ている。
「羊ケ丘、済まなかった。今後はそういうことのないよう徹底するつもりだ」
「そ、そうだぞ。これからは気をつけ」
「そんな、山王会長が悪いわけじゃないんだし頭を上げてください。僕は全然大丈夫ですから」
雪の威嚇を優也がおっとりとした口調で被せ微笑む。ぴりぴりとした周囲の空気が少し緩和されたような気がした。
「それより雪があの後まさか肉食組の皆さんに追い掛けられていたなんて。こちらこそご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「ちょっと優也っ、俺悪くねぇし!」
「原因が雪になくたって回避できた筈だよ。追われた挙句、迷って肉食組の棟まで行って山王会長に送り届けてもらったのは事実だし、授業中だったんだよ?」
「そ、それはそうだけど、でも、優也のことバカにした奴らが許せなかった」
優也は肉食組の挑発に乗った雪も悪いとはっきり言い放つ。
すると雪の長耳が次第にへなりと垂れ下がる。
謝罪にしにきたのは自分なんだが……、と雷太は雪に同情してか手を伸ばした。
その手は雪の前髪を梳くように横へ流れていく。
柔らかそうな黒髪だ。頭の天辺からどういうわけか綿菓子の匂いがしたことを思い出す。
雷太の視線は垂れ下がってしまった黒耳へと向けられた。
(この付け根をくすぐった時に、甘く可愛らしい声で鳴いたんだ)
「……っ、なに」
「山王会長……?」
優也に呼びかけられてはっとした。
気付けば雷太の手は雪の頭を撫でているではないか。
雪は体を硬直させて今にも泣きそうに黒目がちな瞳を潤ませているし、優也は眉間に皺を寄せ大人しそうな顔を若干険しくさせている。
自分の行動に対する動揺を隠し、雷太は雪の頭に乗せた手をぱっと離した。
「あ、いや、子供扱いして悪い。俺も黒兎も羊ケ丘も同じ2年だったな。失礼した」
「まぁ確かに雪は子供っぽいものね」
「なんだよそれ。優也だって子供だろ」
「雪よりましだと思うよ」
雷太の目の前で小さな口喧嘩が勃発したが雷太の目には微笑ましくさえ映る。
どうにか雪ともっと親しくなれないだろうかと思案を巡らせていると、紅が2人分のトレーを抱えて戻ってきた。
「お待たせしました」
「ありがとう」
コトンと小さな音を立ててテーブルにトレーが置かれる。
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