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第31話

雪の興奮の理由は、実はそれだけではない。 ───間接キス。 優也が放った余計な一言が、雪の耳にこびりつき、ずっと離れないのだ。 冷静になって思い返すと、お互いのスプーンとフォークで昼食を食べさせ合っていたという現実。後に遅れてやってきた羞恥心。胸の奥がきゅうっと疼くような雪が今まで感じたことのない、おかしな感覚。 これは何か未知の脳内物質が出ているに違いないと鈍い頭で考えた。 そして、あの日のことを思い出す。 肉食組に追われ、雷太と共に森を歩いた時のことを。 耳の付け根に触れられた時、尻尾を揉まれた時、下肢に甘い痺れが走ったことを───。 そんなことを思い出し、顔と体を火照らせて興奮状態に陥ってしまった雪は、なかなか寝付くことができなかったのだった。 その晩は夢まで見た。 雪と優也、雷太と紅の4人で、どこか見晴らしの良い高台の上、ハイキングしている夢だった。 レジャーシートを敷き広げ、ランチバスケットの中には沢山のサンドイッチが詰まっている。 サンドイッチの具材も豊富で、レタスにトマト、卵、ベーコン、コロッケなどの総菜も挟まれていた。 「黒兎はどれが食べたい?」 「そうだなぁ……俺トマトがいいな」 雪が言うと雷太はにこっと笑ってトマトのサンドイッチを手に取り雪の口へ運んでくれる。 「んー、うまぁ」 リクエストしたサンドイッチが雷太の手で雪の口まで運ばれる。 まるで自分が王様か女王様にでもなったようで、悪い気はしなかった。 むしろそうされて喜んでいる感覚もある。 夢の中でありながら味覚も食感もなかなかにリアルで、雪は野菜の旨味を堪能しながら小さな口でパクパクとサンドイッチを平らげていった。 「野菜ばかりでなく、肉も美味いぞ」 「え……」 「ほら、おいで」 雷太が胡坐をかいた腿の上をポンポンと軽く叩く。雷太の膝の上に乗れと言われているのだと気づいた。 そんなことしたらおかしいだろう。子供じゃあるまいし……。 雪は口に出すことなく、座っていいのか、いや、おかしいだろうと頭の中で葛藤を繰り返す。 「あれ……?」 気付くといつの間にか雪は雷太の膝の上にいた。 後ろから雷太に抱かれた姿勢で、雪の口元にはベーコンとレタスのサンドイッチが寄せられている。 「ほら、美味いぞ。口を開けて」

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