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第33話

「雪ー、僕先に食堂行ってるね」 バスルームの扉越しに優也の声が聞こえ、雪は「おう」と返事する。 寮の食堂で取れる食事は朝食と夕食だけと決まっていて、且つ限られた時間しか開いていない。ゆっくりとシャワーに打たれている場合ではなかった。 雪は自分の頬を両の手の平でぱんっと打ち気持ちを切り替えることにした。 「ただの夢だ、夢!もう気にしない」 シャワーを終えてワイシャツとスラックスを身に着ける。スラックスの尾骨穴から尻尾を出して、手早くタイを結び、濡れた髪もそのままに食堂へと小走りで駆けて行った。 他の生徒達も食堂へ向かうため、通路もがやがやと騒がしく賑やかだ。 そんな中、雪は他の生徒達の間をひょいひょいと潜り抜けていく。 擦れ違う度、道行く生徒に「おはよう」と声を掛けられるけれど、雪はろくに声の主を見ることもなく「おはよー!」と適当に声を返す。 朝ごはんは何かなぁと腹の虫を抑えて意気揚と食堂に入ろうとしたところ、雪を待ち構えていた草食組の会長である象山泰造(ショウザンタイゾウ)に呼び止められ、大きな手で首根っこを掴まれるようにして通路の端へと移動させられた。 「おはよ……。どうしたんだ象山?なんか顔が怖いぞ」 「あぁ。昨日のこと牛島から聞いたんだが、その後大丈夫なのか?」 象山は壁際へ雪を押しやり俗にいう壁ドンというやつで雪に覆いかぶさるようにして、眉間に皺を寄せ、険しい表情だ。 象が始祖だという象山は、大柄な上、制服の上から見てもわかるほど筋肉質で、パワーはこの学園でも群を抜いて秀でている。心身ともに思春期の男子とは思えないほど安定していて誰からも頼られる存在である。 雪と同学年の2年生で、クラスは違うが雪が安心して話しのできる生徒の一人でもあった。 「なにが?」 「何がって……。食堂で肉食組と何か一悶着あったらしいじゃないか」 「え?いや?何もないよ」 「そうなのか……?本当に大丈夫なのか?何かあるのなら今のうちに教えてくれ。今度の合同会議で話しておくから」 「向こうの会長が野菜は美味いんだぞって向こうの奴らに宣伝してくれただけで。逆に俺もベーコン食わされたけど」 「ふむ」 象山が壁ドンしたまま反対の手を額に当てる。 何か考え事しているようだった。 「どうしたんだ?」 「いや、牛島から報告を受けたんだが、話がちょっと違うなと思って」

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