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第36話
遅れて授業に参加したにも拘わらず、雪はどこか上の空。
雪の視線は寮の同室でありクラスメイトでもある優也へ向けられていた。
優しくて、おっとりとした柔らかい物腰が好印象で、意外としっかりものの優也。
2年に進級してから同室になり、雪の話をよく聞いてくれた。
嬉しかったこと、楽しかったこと、愚痴や下らない話も。
こんなに優也に心を晒け出していたのは、自分だけだったのだろうか。
優也が上級生に告白されたことを知らされなかった事実が、思ったよりも堪えたようで、雪の心は重く低い所に停滞している。
それだけでなく、まさか優也に浮いた話があったとは……と、自分にないものを持っている優也に嫉妬している自分もいた。
(教えてくれてもよかったのに)
雪は優也からそっと視線を外した。
そしてふと気付く。
もしかして優也たけでなく、他の生徒たちも恋愛経験があるかもしれないと。
(俺が知らないだけで、みんな恋人いたりすんのかな……)
雪は腕組みし、首を捻る。
考えたところで答えなど出るはずもなく、雪のしていることはただの推測に過ぎない。
クラスメイトが恋をしているか否か。
自分より数歩先にいるかもしれない仲間達。
健全な高2男子ならば彼女の1人や2人くらいいたっておかしくないだろう。
自分に恋愛経験が一切ないだけに優也の話しを聞いて焦りが生じた。もしかして自分はものすごく遅れているのではないか……と、とりとめのないことを考える。
「んー……」
どうやら無意識のうちに唸り声を発していたらしい。
「どうした黒兎。どこかわからないところでもあるのか」
教師に声をかけられ我に返った。
「は、はいっ。えっと……わかりません……?えー……聞いてませんでした、すいません……」
雪がしどろもどろになって答えるとどっと教室中に笑いが起こり、雪は恥ずかしくなって俯いた。
(やっちゃった……)
「黒兎、後で職員室まで来なさい」
「はい……」
こうして雪は職員室で説教を受けることが確定したのである。
昼休み、購買で買ったおにぎりと野菜ジュースを教室で食べ終えて、雪が溜息を吐きながら椅子から立ち上がった。
教師の呼び出しに応じる為だ。
「あ、待って。僕も行く」
一緒に昼食をとっていた優也雪を見て手に持っていた残りのおにぎりを口に詰め込む。
「え?俺1人で行けるよ」
「だめ」
「なんで」
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