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第37話

「なんでって。この間あんなことがあったばかりなのに。また絡まれたらどうするの」 「どうするも何も。走って逃げればいいだけだろ。楽勝だ」 何をそんなに心配することがあるのだろう。 絡まれたことは事実だけれど、たまたま食堂のカウンターで擦れ違った相手が悪かっただけだし、自分に否はなかった筈だ。 まるで自分が動くだけで事件でも起こりそうだと言われているようでいい気はしない。 雪が面白くなさそうに唇をツンと突き出した。 「あぁもう」 「……何が言いたいんだよ」 優也の度を越えた心配の意味がわからない。 先日の一件が全く堪えていない様子の雪に苛立ちを感じたのか、優也が珍しくキッと目を釣り上げた。 「あのね、雪は自覚がないみたいだからこの際はっきり言わせてもらうけど、雪のことを性的な目で見てる生徒なんて山程いるんだからね!」 「え……せーてき?」 (あれ、この話しの流れ、どこかでやった……) 妙な既視感を覚え雪は記憶を引っ張り出す。 「雪、人の話し聞いてるの」 「……、あぁそうだ!象山にも同じこと言われたんだ!」 雪は今朝、廊下の隅で象山に優也とほぼ同じようなことを言われたことを思い出した。 「え?そうなの?だったらもうちょっと人の気持ちを」 「ごめん、せーてきって何?」 優也の言葉を遮るように雪が聞く。 優也は呆れたような視線で雪を見ている。 「何って……大体イントネーションおかしいし。なんだよセーテキって」 「え、変?」 「え?本当にわからないんだ。驚きなんだけど……。じゃあ説明するけど、セーテキのセーはセーじゃなくてセイ。セイは性交渉の性だよ。それくらい小学校の保健体育で習ったでしょ」 「せい……こうしょう……」 「つまりセックス」 「……っ!!」 セーテキ=性的。セイテキの性=性交渉のセイ。性交渉=セックス と、雪の頭の中で疑問が繋がり、雪は大きく息を呑み両手で口元を覆った。 「理解した?だから雪とそういうことしたい生徒がこの学園には多数存在しているということが言いたかったの。雪は気付いてないかもしれないけど、先日絡まれたアレだって雪目当ての生徒達だったんだよ」 「……うそ」 「嘘じゃないから」 「そうだよ。誰かと一緒に行くべきだ。じゃなきゃ牛島に連絡するぞ」 話しを聞いていたと思われるクラスメイトが口を挟む。 雪はいつの間にか教室中の注目を浴びていたことに気が付いた。

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