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第39話

優也は雪の心中を知ってか知らずか、その手を見て穏やかな目元を更に緩めた。 職員室は中央棟の2階にある。 ここまでくると教師が中にいるだけで、生徒の姿は殆んどない。 優也が職員室入口前で足を止めた。 「職員室の中までは付いていけないから、僕ここで待ってるね」 「うん。用もないのに付き合わせてごめんな」 「気にしないで」 優也は面倒なことにも嫌な顔一つしない。 雪は優也の存在に感謝しつつ、職員室のドアをノックした。 中に入ると呼び出しをした教師が雪に気付き、この日の授業の復習をよくしておくようにと手短に説教され、授業内容にあたる問題プリントを1枚手渡された。 自業自得だけれど宿題が増えてしまった。 プリントを手にし職員室を退室しようと踵を返したその時、聞いたことのある張りのある通った声が耳に入り足を止めた。 長身で均整のとれたしっかりした体躯に金の髪、同じく金の三角耳。 間違いない。山王雷太だ。 髪の長さはミディアムショートほど。 艶のある金の髪は色気があって同い年とは思えないほど大人っぽい。 きっと遠目から見ても雷太だとすぐにわかるだろう。 無意識に見惚れている雪の視線を感じたのか、雷太がちらりとこちらを振り返った。 「……っ」 一瞬目が合い、雪は慌てて目をそらすも、もう一度雷太を視界に入れると今度はしっかり目を合わせてにっこり微笑み手を振った。 悪い奴ではない。 しかし林の中ではセクハラめいたことをされた気もするし、もしかしたら雷太も優也が言うところの、いまいちよくわからない性的な目で自分を見ていたりして。 そう意識した途端、雪は火がついたようにボンッと顔を赤くした。 (まさか……ね) 雷太も用事が終わったようで教師に会釈し終えると雪の方へ向かって歩いてくる。 過剰に意識し緊張しているのは自分だけだろうか。 林の中であの時に見た、雷太の瞳の奥に灯る炎のような熱っぽさを思い出し胸が震えた。 きゅっと胸が絞られるような感覚。 それが単なる緊張なのか、はたまた肉食に対するトラウマめいた恐怖なのか、 それともまた別の何かなのか。 雪には判別不可能だ。 「黒兎」 「おっす」 雷太は雪を見て笑顔で声をかけてきた。 その声に雪は赤い顔のままぶっきらぼうに返事する。 それを見て雷太はくすりと笑った。 「何か悪さでもして呼び出されたのか」 「なんでそう決めつけるんだよ」

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