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肉食組寮 東雲(シノノメ)
何がいけなかったのだろうか。
西日の差し込む午後の教室で、雷太は物思いに耽っていた。
職員室で偶然出くわし、笑顔で雷太に手を振ったかと思えば手の平を返したように不機嫌になる。
触り心地の良い黒い長耳を元気にピンと伸ばしたり、落ち込んだように下げてみたり、表情はころころ変わるし、動作の一つ一つも落ち着きがない。
雪の一挙手一投足、雷太の視界に入る度、非常に気になった。
潤んだ瞳、赤い頬。雷太は脳裏に雪の姿を思い描く。
あんな顔をされては勘違いして抱き締めてしまいそうだ。
思わず手が伸び頬を撫でてしまったのだが、もしかしたらそれがいけなかったのだろうか。
(それが怖かったのか……?)
先の職員室での出来事を振り返り雷太は頭を抱えた。
効果音をつけるとしたら、ガーン……、である。
そういえば雪が肉食組の棟へ迷い込んできた時、もっとぷるぷると震えながら怯えていたことを思い出す。
またしても自分が怖がらせてしまったのだろうか。
どよんとした空気を纏ったまま、午後の授業を終え肉食組生徒会室へと向かう。
2か月後に控えた体育祭のプログラム案を実行委員顧問の教師へ提出し終え、来週には草食組役員、実行委員を交えた合同会議が開催される。
双方希望のプログラムを絞り、安全面を第一に考えて詳細を詰めていく予定だ。
雷太が生徒会室のドアを開けると、既に他の役員達は長机を囲んで座っていた。
「お疲れさまです」
紅をはじめ、副会長である烏合慎介(ウゴウシンスケ)と、会計の屈狸公平(クズリコウヘイ)が席を立ち雷太に会釈した。
「あぁ、お疲れ様。座ってくれ」
雷太の言葉を聞いて3人ともが席に座る。
雷太は職員室に提出した正式な体育祭に関する書類のコピーを3人の手元へ配ると、すっと通った声を生徒会室へ響かせた。
「これは職員室に提出してきた正式な書類だ。これを元に来週草食組との合同会議が開かれる。肉食組体育祭実行委員と、草食組実行委員のメンバーも全員参加する。今年は肉食組生徒からの希望で例年行われている種目の他に、草食組との交流を深めたいという理由からフォークダンスを希望する者がいた。フォークダンスが通るかはわからないが、草食組と交流するための競技が何か一つ増えるかもしれないな。あとは、恒例の騎馬戦、棒倒し。これらの競技の安全面について話し合う予定だ。何か質問や意見があれば言ってくれ」
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