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第43話
「特にはなさそうですね」
紅が役員の顔を窺い見ながら口を開く。
すると烏合が黙って手を挙げた。
「烏合、何だ」
雷太の問いに烏合は「ここだけの話なんですが」と切り出した。
カラスが始祖である1年の烏合は、黒髪で前髪だけに白いメッシュを入れたヘアスタイルと、制服である白いワイシャツの上に黒のパーカーを羽織った、モノトーンで揃えたパンクスタイルのような出で立ちだ。
一癖も二癖もありそうな外見だが、他者とのコミュニケーション能力に長けていて情報収集も得意だった。
「小耳に挟んだ程度の話なんですが、こっちの生徒が草食組生徒の貞操を巡って体育祭の競技で誰がその権利を得られるかという賭けをしているらしいんです」
「げ、最低じゃん」
屈狸が小動物系の丸い顔を嫌そうにしかめてみせる。
雷太もまた、ぴくりと眉を動かした。
「賭けの対象となっている草食組生徒の名前はわかるか」
「はい。2年の黒兎雪さんです」
「……なんだと」
烏合の返事を聞いた直後、雷太から発される熱が肌を刺すような冷たさに変化した。
更に威圧のオーラを漂わせる。
ビリビリとした空気を感じて紅、烏合、屈狸の3人は身震いするほど重圧な畏怖を感じた。
見れば雷太の唇の隙間からは犬歯が大きく伸び、書類を握る指先からは鋭い爪が伸びている。
激しい怒りや緊張状態、危機的状況に陥った時、角持ちの草食獣人達が鋭い角を出すように、雷太もまた心の大きな負への変化によって、自身を守る為一時的に牙や爪が伸び筋力も増強する。
雷太がぐしゃりと持っていた書類を握ったところで紅がその空気を遮った。
「会長、牙と爪、伸びてます。落ち着いてください」
「……っ」
雷太自身も体の変化に気付いていなかったのだろう。
鋭く尖った爪を見て、チッと舌を鳴らした。
「会長、去年はどうだったんだろう?会長は去年も生徒会の役員だったよね。黒兎くんの人気は今に始まったことじゃない気がするんだけど」
屈狸が疑問を口にする。
確かにそうだ。雪の外見的な愛らしさならば、似たようなことがあったとしてもおかしくない。
雷太は去年の体育祭を思い返す。
しかし何も思い当たることはなかった。何かあれば覚えているだろうし、雪の存在をつい先日まで知らなかったのだから騒ぎ立てるようなことは何もなかったのだろう。
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