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第44話
「何も問題は起きていないと思うが後で去年のことも確認しておくか……。烏合、その賭けを持ち出した生徒の名前はわかるか」
「はい。恐らく3年の鬣犬(リョウケン)先輩のグループかと」
「鬣犬か……」
3年の鬣犬は素行の悪さで有名な生徒だった。鬣犬をトップに置き数名でグループを結成し悪行を重ねている。一部草食組の生徒達と対立しているのも、この鬣犬のグループだ。
ある者はゆすられて金を搾り取られ、またある者は売春行為をさせられた上、金を脅し取られたらしい。
そんな噂が絶えないのだが何一つ証拠を残さないため教師も手を焼いていて、学園側も鬣犬を追放できないでいる。
質の悪い鬣犬の毒牙に雪がかかってしまったら……。
考えただけでぞっとする。絶対にあってはならないことだ。
「鬣犬についてはいざとなったら俺が牽制する。烏合は引き続き情報収集。紅は監視体制を強化。屈狸は去年の体育祭のことを草食組から聞いてきてくれ。その……黒兎が去年どうしていたのかも」
「了解」
こうして肉食組生徒会役員による小会議は終了し、解散となった。
雷太は紅と並んで肉食組寮、通称東雲へ向かう。
「黒兎さんのこと、ご自分で黒兎さん本人に聞けばよかったんじゃないですか」
紅の言うことは最もだ。
しかし雪が自分を怖がっているのではないか、だとすれば本当のことを話さないという可能性もあると考えた。
それに目の前で怖がられることは、非常に身に堪える。
「まぁ、そうなんだが……。屈狸の方が草食組に精通してるからな。あの丸顔は草食組の警戒心を程よく解くらしい」
はははと誤魔化すように雷太は笑うが、そこへ紅の冷ややかな視線がぐさりと突き刺さる。
「ヘタレですか。どうせおかしな質問をして嫌われたらどうしよう?とか、そんなことでも考えているんじゃないですか」
近からず遠からずだが、雪に嫌われたくないという気持ちは見抜かれていたようだ。
「俺の仕事はそこじゃない。この体育祭を穏便に済ませ、成功させることだ。そのためならば、相手が3年生であろうとも容赦しない」
この言葉を聞いて紅が不敵な笑みを見せる。
「鬣犬先輩のグループを潰すのなら、喜んで手伝いますよ」
「ばかを言え。学園に知られたら退学だぞ」
「ふふ、そうですね。やるなら秘密裏に……ですね。向こうも証拠を残さないらしいじゃないですか。あぁ、腕が鳴りますね」
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