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第47話
今自分に出来ることと言えば、鬣犬に睨みを効かせることくらいか。
妙な気を起させないよう威圧し殺してやる。
雷太が怖い顔で宙を睨む。
「そろそろ2年生が食堂使っていい時間だよ。山王一緒に行こう」
「あ、あぁ」
のろのろと蛇塚が雑誌を閉じてベッドから起き上がる。
「山王のそれ、肌がビリビリして嫌いじゃないけど、食堂でそれはやめた方がいいよ」
「……そうだな、すまん」
雷太の言葉に蛇塚が笑う。
鬣犬のことを考え、いつの間にか威圧の空気を纏っていたようだ。
雷太と蛇塚は揃って食堂へと向かった。
食堂は学年ごとに利用できる時間が決まっている。1年、2年、3年の順だ。
利用交代時間ぎりぎりまで粘れば、鬣犬と顔を合わせることができるかもしれない。
雷太はそう考えてゆっくり食事をとった。
しかしどういうわけか、こんな日に限って食堂を利用する生徒がやけに少ない。
雷太は鬣犬を目で探しながら、この日一押しのメニューである豚のスペアリブに齧りつく。
「なんだか今日はやけに人が少ないな」
隣にちょこんと座った蛇塚は卵のスープを飲みながら言った。
「ずっと出てるよ、威圧的な風。山王のオーラが怖いからみんな食堂を使わないんじゃないの」
「……っ、俺のせいなのか」
これでは鬣犬を牽制するどころが、顔を合わせることすらできない。
「山王、何があったの」
「ちょっと問題行動のある奴がいてな。少し顔を見ておきたいんだ」
「なるほど。顔を見ておくと言いつつ、山王のそのオーラで跪かせたいわけね」
「ひざまずかせ……いや、そういう訳ではない。牽制しておきたいだけだ」
「そうなんだ。で、誰?」
「……それは、秘密事項だ」
「同室のよしみで俺も協力するけど?こんなにピリピリしてる山王はあまり見ないし、これでも心配してるんだよ」
蛇塚はふぅふぅとスープの熱を吹き冷まし、蛇特有の僅かに割れた舌先を出してみせる。
「まぁでもこの時間まで粘るってことは、3年の誰か?」
「……そんなことは言ってない」
「3年の問題児と言えばあの人しかいないよね。鬣犬先輩」
「……」
押し黙る雷太を見て蛇塚が「ビンゴ」と小さくガッツポーズした。
「山王からそのオーラが出てる限り、多分会えないよ。面倒毎には首を突っ込まない主義らしいから」
「どうして知っている」
「俺、あの人にタイプだって言われたことがある」
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