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第49話

雪と同じように小柄でも蛇塚には爬虫類である蛇の血が流れているし、身を守る術がある。 片や雪はいくら去勢を張っていようが弱いとわかる、怯えてばかりの小さな兎だ。 やはり雪は自分が守ってあげなければと、使命感は義務的に雷太の心を占領した。 「じゃ俺先に行くから。山王は少し経ってからきて」 「あぁ」 蛇塚と一緒に大浴場へ向かおうとした雷太だが、威圧のオーラがずっと消えないので後からくるように言われてしまった。 オーラを出しっぱなしで居られると、誰も大浴場へ来なくなるということだった。 そんなに自分は威圧的な空気を醸し出しているのだろうか。 同族にまで警戒される空気を出しているのだからきっと雪にも同じように思われていることだろう。 雪に会う度雷太を見て怯えているイメージがあった。 (どうしたら自分が無害だとわかってくれるだろう) 雷太の悩みは尽きない。 その前に今は鬣犬だ。雷太は気合いを入れなおし、タオルと下着を手に部屋を出た。 先刻よりも威圧のオーラを強く放っていることを本人は気付いていなかった。 大浴場はそれなりに賑わっていた。 ほどよい熱気と檜の香りが心地よく、中からは楽しそうにはしゃぐ声も聞こえてくる。 雷太は部屋着を脱いでフェイスタオルを1枚腰に巻き、浴室へ続くガラス扉を静かに開けた。 その途端、はしゃいでいた声がぴたりと止む。 「お、お疲れ様です!」 お疲れ様ですと中にいた生徒達が口々に雷太へ挨拶する。 「あぁ、お疲れ様。俺には構わず、みんな好きにくつろいでくれ」 和気あいあいと入浴を楽しんでいただろうに、雷太の登場でその空気が一刀両断されてしまったらしい。 (……しまった) 雷太は少し落ち込んだが、落ち込んでばかりもいられない。 あまり目立たない場所で鬣犬の動向を探ろうと浴室の隅へ移動した。 「山王」 「……っ!」 パシャッと水飛沫が小さく舞う。 何の前触れもなく突然横から名前を呼ばれ、気配すら感じられなかった雷太は肩をびくつかせて驚いた。 「なんだ、蛇塚か」 心臓に悪いルームメイトだ。 「鬣犬先輩来てるよ。あそこで頭洗ってる」 「あぁ」 浅黒い肌の鬣犬が時折泡が目にかかるのか、泡だらけの頭を横に振る。 両隣のシャワーを使用している生徒たちは迷惑そうに鬣犬へと顔を向けるが、鬣犬は全く意に介す様子がない。 さすが問題児だとある意味感心する。

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