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第50話

雷太がじっと見据えていたことに気付いたのか、鬣犬がシャワーで体を流しながら雷太に目を向けた。 気付いてくれた方が雷太としても好都合だ。 しかし他の生徒のように雷太の存在感を感じても飄々としているのは、恐らく鬣犬単独でもそれなりに強いということなのだろう。 体を流し終えた鬣犬が雷太の方へと向かってくる。 浅黒い肌、程よく隆起した筋肉質な体、赤い髪。金のピアスが耳に光り、どこからどう見ても本質的に緩い印象だ。 「よおっす。山王」 「お疲れ様です」 ざぶんと湯船を揺らしながらわざわざ雷太の隣に鬣犬は腰を下ろした。 「なぁ、お前の同室の……なんだっけ」 「……蛇塚ですか」 「そうそう、そいつ。蛇塚。そいつ知らねぇ?さっきまでいたと思ったんだけどな」 「蛇塚なら逆上せたと言って赤い顔をしていたので、俺が上がれと言いました」 「ふぅん、そうなんだ。蛇塚に呼び出されたんだけどな。風呂に誘われたからてっきりエロいお誘いかと思ったんだけど」 思わず雷太が眉を寄せる。 雷太に引けを取らない体格の鬣犬なんかにいいようにされたら、いくら体術を身に付けている蛇塚でも体を壊されてしまいそうだ。 (下衆な……) 「あいつ細っこくてなかなか可愛いよな。あ、もうヤったか?体は柔軟だし色んな体位が楽しめるんじゃねぇ?」 だはは、と下品な笑い声を交えて喋る隣の男を雷太はぎろりと睨み付ける。 「蛇塚は俺のルームメイトです。変なことを言わないでください」 「なんだ。ヤってねぇのか。……で、俺に何の用?見詰められ過ぎて穴でも開くかと思ったわ。って、ケツには既に穴開いてんだけどよ」 沸々と湧き上がる、怒りにも似た何とも言えない感情を内に抑えながら雷太が控えていた威圧のオーラを放出する。 肌でそれを感じたのだろう、鬣犬は不機嫌な顔つきを露にした。 「何の用だって聞いてんだよ。俺は気が長ぇ方じゃねんだ。お前のそれ、はっきり言ってムカつくんだけど」 今にも噛みついてきそうな雰囲気の鬣犬に雷太は微塵も怯む様子を見せず、我慢しきれず少しだけ伸びてしまった犬歯を覗かせながら口を開く。 「黒兎雪に手出ししたら許しません。容赦なく喉元に噛みつきます」 雷太が静かに怒りを含んだ声で告げると鬣犬は少し間を置き、何がおかしいのかクックと笑った。 「……そうか。お前、蛇塚じゃなくてあっちの黒ウサギちゃんがタイプなわけね。覚えておくよ」

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