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第51話

鬣犬は明らかに他の生徒たちと質が異なった。 雷太の威圧も鬣犬には効いているのかいないのか。 鬣犬からの返答は、まるで雪への思いを揶揄しているようにも聞こえた。 「俺は本気です」 不測の事態に備え、念を押す。 ここまでして行動に移すというならば、本気で飛び掛かってやる……と雷太は殺気立つ。 「わーったよ。あぁ面倒くせぇな。蛇塚はいねぇしお前はうぜーし。自室でシャワー浴びた方が100倍マシだったわ」 「……」 鬣犬はざばっと水を撒き散らしながら浴槽から立ち上がり、雷太に向かってにやりと笑いながら言った。 「でもよぉ、お互い合意の上なら何したって問題なぇよな。あー、あのちっせぇ尻にぶち込みてぇなぁ。長い耳掴んで後ろからガン掘りして、あんあん言わせてぇなぁ……」 「なっ……ふざけるな!!」 信じられない。 鬣犬は何てことを言うんだろうか。 その対象が誰であっても許せないが、鬣犬が言っているのは間違いなく雪のことである。 雷太は鬣犬の背中を鋭い眼光で睨み付けた。 「お前だって本当はそうしてぇ筈だ。同じ肉食同士、考えてることくらいわかるだろう?草食を征服し屈服させたいのは本能だ。ましてやあのウサギは奇跡としか言い様がないくらい上玉ときてる。組敷いて鳴かせてみてえよな」 「黙れ……!」 雪をそんな汚れた目で見るな、許せない、と雷太の狩猟本能を剥き出しにさせる。 握り締めた拳で、だんっと音を立てながら浴槽の淵を叩いた。 「けど、まぁお前は生徒会長様々だ。所詮は常識人。いい子の枠からははみ出せない優等生だ」 「……くっ」 「俺を殺すなんて、できないだろう?」 「……っ」 鬣犬はそう言って、鼻唄を歌いながら浴室を出ていった。 血が沸々と煮えたぎる思いだった。 怒りを露にした雷太の間の前で、雪を辱しめると口にした鬣犬には、雷太の威圧も牽制も然して意味がないとわかる。 一度冷静になれと自分自身に頭の中で命令するが、鬣犬に対する怒りと、辱しめられている雪を想像し、思考がまた変化する。 雪を組敷くのはお前じゃない……と。 雷太は自分が雪を抱いている姿を想像した。 怒りで興奮したところに、鬣犬の言葉で充てられたのだ。 「っ、だめだ。これではヤツと一緒だ……」 雷太は自分の思考をかき消すようにぶるぶると頭を横に振る。雷太の声が空しく響く。 いつしか大浴場にいるのは雷太一人になっていた。

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