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第53話
雷太の本気を目の当たりにし、3人はただ頷くばかりだった。
「やるなら徹底的にやりましょう」
「そうだね。今後も問題を起こしかねない」
烏合と屈狸が雷太の為に尽力すると誓う横で、紅が何かを思いついたのか「あぁ」と小さく漏らした。
「会長」
「なんだ、紅」
「思ったんですが、会長が黒兎さんに手をつけてしまえばいいんじゃないでしょうか」
「……ん?手をつける……?」
「そうです。黒兎さんを自分のものにしてしまうんです。そうすればその賭けに関わる者が相当数減るはずです」
「なっ……何を言っている!そんなことできる筈がないだろう!!」
紅の言葉を理解するのに数秒要してしまった。
雷太は自分を見て怯える雪を思い出し、そんな無謀なことができるかと狼狽えた。
「いや……でも、それ効果あるよ山王。本当に付き合っていなくても、付き合っている風に装うだけでもいい。平和的に解決できる一番の方法だと思う」
「……それなら草食組会長の方が適任だろう」
「会長それはダメです。鬣犬先輩の企てが草食側に漏れてしまったら、体育祭自体取りやめになるということだって考えられます。そうなると僕達がいかに無能であるか問われた挙句、肉食組全体の秩序が乱れてしまいます。カーストが崩れるんです」
流石は紅だ。一時的な感情に流されず、先のことまで見据えている。
本来ならばそれは自分の仕事なのに。
雷太は熱くなり周りが見えなくなっていた自分を情けなく思う。
「そうか。そこまで考えが及ばなかった。すまない。助言してくれたことには感謝する。だが、この先体育祭までに黒兎とどうやって距離を詰めればいいのか。恐らく俺は嫌われている」
「そんな。会長を嫌う獣人なんてこの学園にはいませんよ」
烏合が慰めの言葉を口にするが、気休めにしか聞こえない。
雪のこととなると気が弱くなってしまう。
紅も屈狸も平和的解決に繋がることだと提案してくれた、‘’雪と付き合ってます‘’計画は実行に移せそうにない。
「僕に考えがあります。会長、明日出掛けましょう。ダブルデートです」
紅が雷太を見てふふふと笑った。
「ダブルデート?」
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