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第56話
大人っぽい2人に対して、雪と優也の見た目は年相応である。
優也は柔らかなニット素材のカットソーを着用し見た目もそのままにふわっと優しげな雰囲気だ。
雪はトラッドチェックのハーフパンツにパーカーを羽織っている。
可も不可もなく至って普通なのだが、すらりと伸びた真っ直ぐな白い脚、ピンクの膝小僧が妙に艶かしい。
無防備な素肌に時折雷太の視線が注がれた。
しかし雪は野菜に夢中で気付かなかった。
雪はもぎたてのトマトやレタス、加工され惣菜として売られていたスティック状のニンジン、真っ赤なリンゴとプラムをカゴに入れた。
カゴの中身は山になっている。
優也は雪より控え目であったが、好物のブロッコリーやカリフラワーは外さない。
「優也それだけ?」
「雪が買いすぎなんじゃない?食べきれる?」
「楽勝楽勝」
雷太が代金を支払ってくれるので雪は野菜を詰め放題だが、優也はかなり遠慮がちだ。
どこを見ても野菜、野菜の朝市だが、肉の焼けるこうばしい香りも漂ってくる。
そちらの方へ足を進めると、ワゴンでミートパイが販売されていた。
「あ、ねぇ雪。あれ、会長と副会長に一つずつ買ってお礼しない?こんなにしてもらってばかりじゃ悪いしね」
「それもそうだな」
カゴの野菜は控え目だし、お礼することにも頭回る優也。
微塵もそんなことを考えなかった雪。
優しい気遣いは雪の見習いたいところである。
2人はミートパイを2つ、雷太達に気付かれないようこっそり買って、野菜山盛りのカゴを引っ提げ雷太達の元へと戻った。
雷太は雪のカゴを見て目を丸くする。すごい量に驚いているのだろう。
しかしそのことに触れることなく、雷太は雪を見て目を柔らかく細めた。
「会長、山盛りなんだけど全部買っていい?」
一応形だけ伺い立てて雷太を見上げた。
「もちろん構わない。美味そうな色の野菜だな」
「だろ?一緒に食べよう」
「あぁ」
雪の言葉に雷太が微笑む。
その笑顔を見て嬉しくなると同時に、優也から言われた言葉を思い出した。
”会長に恋をしている”
そう優也に指摘されたことを。
雪から受け取ったカゴを持ち、レジへ向かう雷太の後ろ姿を、雪はいつの間にか赤くなった頬で見詰めた。
「雪、あそこに座ろう」
「あ……うん」
優也がパラソルのついたテーブルを指さし雪が慌てて頷く。
「雪?どうかした?」
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