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第57話
「へっ……な、なんでもない。なんで?俺変な顔でもしてた?」
「んー変っていうか。まぁいいや。座ろ」
「うん」
優也に返事をしながら、雪の心はここにあらずだった。
正直、雷太が気になり、変に意識してしまうことが多い。
雪は椅子に浅く腰かけて、雷太と紅が戻ってくるまでの隙を見て、優也にぼそぼそと話しかけた。
長耳を折り曲げ顔を隠すようにして小声で話す雪を優也は面白そうに見ている。
「あのさ……、会長も俺のこと性的な目で見てると思う……?」
「えー、どうだろう。でもどうしたの急に。会長のこと知りたくなった?」
「べ、別に。そんなに会長に興味あるわけじゃねぇし」
「そう?でも気になるなら聞いてみればいいよ。きっと会長なら誠実に答えてくれるでしょ」
優也の言葉を受けて雪が躊躇いがちに頷いた。
心なしか優也がにやついているように見える。雪の様子を見て面白がっているようだ。
しかし雷太にどんな目で見られているのか、そればかりが雪の頭を占領する。
同時に頭の隅でどうしてこんなことが気になるのか自問自答している部分もあった。
けれどそこを開けてはいけない気がして無意識に蓋をする。
自分の気持ちを棚に上げても、とりあえずこの疑問を解決しなくては気が済まない。
「もし……もし、会長が俺を性的な目で見てるって言ったらどうしよう」
言いながら雪の顔が真っ赤に染まる。
「まさか。会長は悪い人じゃないの雪も知っているよね。そんな品のない言葉、例え思ってたとしても言わないと思うよ」
「そっか。そうだよな。性的ってことはセック……したいってことだもんな」
「確かにそれはそうだけど、雪、性的の意味ニュアンス的に間違えてない?」
「え。どういうこと?」
「性的イコールセックスって、単純に考えてないかってこと」
優也の言葉を聞いて雪がガタンと音を立てて椅子から立ち上がり優也の口を塞ぐようにして手を当てた。
「ちょっ、そんな大きな声でセック……って言うなよ。恥ずかしいだろっ」
「ふおひはほえへうっへはい」
もごもごと優也が何か言っているが雪が優也の口を押さえているので声がくぐもってよく聞こえない。
雪は「まったくもう」と言いながら優也から手を離した。
「まったくもう、は、こっちの台詞だよ。これだけ野菜目当ての人が行き来してるところで僕達の話なんか誰も聞いてないよ。っていうか、そもそもそんな大きな声出してないしね」
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