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第58話

「でっ、でもっ、エッチな話してるのって変態ぽいし……」 雪は再び長耳を折り曲げ顔を隠すようにして椅子に座り直す。 「だから誰も聞いてないし聞こえたところで気にも留めないって」 「でも……」 「それじゃこの話はもうこれ以上できないね」 溜息を吐いた優也に雪がしかめっ面をする。 結局優也が何を言いたかったのか聞く前に雷太と紅が戻ってきてしまった。 長耳で頬を隠しむすっとしている雪と、それを見て肩を竦める優也。雷太と紅は2人の様子を見て顔を見合わせた。 「お待たせ。二人とも……ケンカでもしたのか?」 「ケンカはしてないけど、性的という言葉の意味についてちょっとした意見交換をしていたところです。それから雪が会長に聞きたいことがあるそうです」 「ちょ、え、ゆ、優也!」 どうして今ここでそんなことを言うんだと優也を恨みたくなる。 これは一体何の話をしていたのかと問われる状況ではないのか。 雪は狼狽えているが優也は悪びれることなく、にこにこと和やかな顔を見せた。 なんだかさっきと様子が違う。 「てことで、紅君、少し僕と一緒に席外さない?」 「ええ、いいですよ。じゃあ僕達、隣のパラソル席に座ってますので」 紅は優也の誘いを快諾し、買った野菜を持って隣のテーブルへと行ってしまった。 雷太は戸惑いながらも「あぁ」と頷き、会計を済ませ紙袋に入れられた野菜をテーブルの上にトンと置く。 買ってもらった野菜を見て、雪は準備しておいたミートパイを思い出した。 優也とのあれこれで忘れてしまうところだった。 「あ、そうだ。これ。口に合うかわかんないけど。野菜いっぱい買ってくれてありがとな」 「なんだ、わざわざ買ってくれたのか。悪いな」 雷太がはにかんだような笑顔を見せて雪の差し出したミートパイに手を伸ばす。 その笑顔が思いの外可愛らしくて、雪は眩しそうに目を細めた。 「黒兔も朝ごはん食べてないんだろう?」 そう言って雷太が紙袋を広げ雪の目の前に差し出した。 「うん。いただきます」 「どうぞ」 雪はニンジンのスティックをポリポリとかじりながら素材の味を噛み締める。それを平らげると、トマトを1個丸かじりした。 雷太はそんな雪の食べっぷりを見ながらミートパイを食べ終えた。 「野菜ばかりよく食べるな。糖質、たんぱく質は摂らなくてもいいのか?」 「糖質、たんぱく質?」

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