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第59話

意味がわからなかった雪は、レタスの葉を手で千切りながら聞き返す。 「パンや米などの炭水化物と、肉やチーズ、豆などのたんぱく質だ」 そう言われて何のことかやっとわかった。 「あぁ、そういうことか。朝は野菜だけでもいいかなぁ。あまり朝はお腹空かないんだよ。昼と夜はもう少しこってりしたもん食べたくなるけどさ」 「ほう、そうなのか」 「会長はやっぱり朝から肉を食べるのか?」 「そうだな、朝はハムやベーコンなどの加工肉をよく食べている。しかし主食はパンや米だ。しっかり食べないと腹が減って頭がよく働かない」 「ふうん。あ、会長も食べる?ドレッシングとかないと食べれないかな……」 雪は一緒に食べようと雷太に提案したことを思いだし、今しがた千切ったばかりのレタスを雷太の口元へ差し出した。 「いただくよ。ありがとう」 直後、不意に雪の細い手首を雷太の大きな手で掴まれ、雪は何事かと目を見開いた。 言葉を発する暇もなく、その手は雷太に引き寄せられる。 雷太は雪の手から直接レタスに歯を立てて、肉を引きちぎるかのように噛み切った。 手ごと食べられてしまうのではないかと、一抹の不安が頭を過るが、程よく肉感のある唇と真っ白な歯、ちらりと見える鋭い犬歯に、何故か釘付けになってしまった。 とく、とく、といつもより自分の鼓動が大きく聞こえ、雪は無意識にレタスを持っていない反対の手指を自分の唇の隙間に差し込んだ。 くわえた指を舌先で舐める。 どうしてそんな行動に出てしまったのか考える余裕などなく、無意識というより本能に従った行動という方が近い。 そうされると予測したのか、それともそうされたいという欲求の表れなのか。 頭で考えたところで答えなど出てこないだろう。 したいと思ってしたことなのだから。 無意識下での雪の行動を雷太はじっと見詰めていた。 そしてすっかりレタスのなくなってしまった雪の指先を、ぺろりと舐め上げた。 「っ、……」 雪は息を呑む。 はっと気付き、現実に引き戻されたと理解した瞬間、目の前にあった激しい欲を灯した眼差しに射ぬかれて、心臓がばくんと鳴った。 (何これ……) 「黒兎、美味かった」 「あ、……う、うん……」 どうして雷太は自分の指を舐めたのだろうか。 理由を聞いてみたい気もしたが、何となく躊躇われ、雪は頬を真っ赤に染めたまま、長耳を垂らし俯いた。

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