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第62話
いつの間にかテーブル越しに中腰となり雷太の方へ体を突き出していた雪は、慌てて胸元の布をかき集めるが、なぜか下腹の更に下がうずうずとして、尻尾の震えが止まらない。
「そうだな。否定はしない。それを変態と言うならば男は大概みんな変態だ。結局最後は黒兔の言ったセックスに繋がるんだろうが、その性欲は衝動的なものだけでなく、愛や恋から生まれてくるものだと思うし、どちらかと言えば後者の方が一般的だと思う。黒兎は違うのか」
「それは……そうしたいって思ったことはまだないけど、会長の言ってることはわかる。でもさ、象山と優也に言われたんだ。俺のこと性的な目で見てるやつが沢山いるんだって」
「……そうか」
「そしたら、性的ってどういう意味なのか考えてそいつらは俺と何がしたいんだって思って、なんだか怖くなった」
「黒兎……」
男としてのプライドは砕かれるし、ただ自分とセックスがしたいだけだったら怖すぎる。
けれど恋愛感情があっても応えられる気がしない。
意識し出せば今まで感じなかった視線まで気になる始末。
「会長は、そんな目で俺を見たりしてないよな?」
「……いや、……ない、と思う……が」
変な間の後、歯切れ悪い言葉が返されたが、雷太ははっきりと否定した。
丸い尻尾の震えがピタリと止まる。
「そ、そっかぁ……ないのか……。そりゃそうだよな。だって、そしたら、会長まで変態の仲間ってことになるもんな」
違うとわかって喜べばいいのに。
雪は笑って応えるものの、心はちっとも笑っていなかった。
どうしてこんなに自分はショックを受けているのか。
そういう対象として見られたかったということなのだろうか。
自分の気持ちがよくわからずに雪は狼狽える。
じんわりと熱を孕んでいたはずの頭と体が急速に冷えていくのがわかる。
耳が力なく垂れて頬を覆う。
雪は更に自分の前髪を下に伸ばして顔を隠す。
自分が恥ずかしい。
一体雷太に何を期待していたのだろう。
じわりと目元が熱くなり、頬の裏をきゅっと噛んだ。
そんな雪の心情を知るよしもない雷太が普段と変わりない口調で言った。
「黒兎、もし黒兎が嫌じゃなければ……の話なんだが、お前がこの学園生活で男に言い寄られて迷惑しているのなら、俺と付き合わないか」
「……?誰と誰が?」
「俺と黒兎がだ」
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