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第65話
それに、雷太から自分を対象外だと宣言された手前、雷太を選んだ体のいい言い訳もできたのだから、堂々と指名することができた。
うまくいったと内心ほっとする。
「もちろん。言いだしたのは俺だし、きちんと責任もって対応させてもらう」
「うん。てことで、この件は会長に頼むから。紅、ありがとうな」
厄介事ともとれる恋人ごっこに自ら買って出てくれた紅に礼を言う。
紅は「いいんですよ」と、にこりと笑って応えてくれた。
雷太が草食の生徒からも人気がある一方で、紅もまた人気者だ。
見た目だけではない紅の良さがわかる気がした。
「よかったね雪」
優也がなぜかにこにこして言う。
本当に心からよかったと思っているかのような台詞だ。
「別にそんなにいいことでもないだろ。ただ俺は町に下りたりしたかっただけだし。それに会長から言い出したんだから財布の心配もしなくていいってことだろ」
「え」
気持ちを誤魔化すために出た咄嗟の言い訳は、雷太にたかる気満々と思われたのだろう。優也が慌てた様子で雷太に目を向けた。
「そうだな。俺から言い出したことだからな。幸い野菜はそんなに高いものでもないし苦ではない。羊ケ丘が気にすることは何もない」
「だって」
「雪……」
平然といつもの口調で返す雷太になぜか優也が「すみません……」と謝っていた。
ひとしきり皆朝食を済ませ、仮の恋人関係を築くという話も丸く収まり、その頃には午前10時を迎えようとしていた。
「折角下りてきたんだから、ちょっと散歩でもしないか」
この後どうしようかと話していると、雷太が身に着けていたボディバッグから小冊子を取り出した。表紙に『街角発見』と印字されたタイトルが見えて、町の情報誌らしきことがわかる。
「会長、それなに?」
雪は恋人(仮)になったのだからパーソナルスペースをぐっと詰めても問題ないと解釈し、雷太の至近距離で情報誌を覗き込んだ。
顔を上げれば雷太の涼し気で男っぽい、けれど温かみのある眼差しとぶつかる。
口には絶対出せないけれど、内実雪の心はそわそわと浮足立ち、丸い尻尾と尻がふるふると揺れるのだった。
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