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第67話
雪の声で雷太は我に返った。
色形が違えど、同じ男の乳首を見たくらいでぼんやりとしてしまうなんて。
本当にどうかしている。
こんなことを考えていては雪に合わせる顔がない。
自分を覗き込む純粋無垢な瞳に懺悔し、雷太は気持ちを切り替える。
「会長、大丈夫?ぼーっとしてたみたいだけど」
「あぁ、すまん。少し考え事をしていた。でも大丈夫だ」
「そう?ならいいんだけど。あのさ、ここに載ってるこの店、行ってみたい!」
雪は開いてあった情報誌の右端に紹介されている店を指さした。
雪の華奢な指先には、MEGAスポーツと書かれた店が載っている。
「アミューズメント施設か?」
「そう!テニスとか卓球、バッティングにピッチング、ビリヤードやダーツなんかもあってゲームセンターもあるって書いてある。学園に入学する前は何回か行ったことあるけど、入学してからは全然。みんなは?」
「僕も久しく行ってないなぁ。その前に運動苦手だから、行くとしたら僕はゲームセンターでちょっと遊んでお茶でもしてみんなの遊びが終わるのを待つ感じになるのかな……」
優也は少し乗り気でないようだった。
確かに運動が好きでない者に、この施設は酷な気がする。
雪は優也を見て、「そっかぁ」と長耳を下に垂らした。
雪の耳は感情に左右され、ピンと張ったり、ゆらゆらと揺れたり、だらんと下がったり。
今のは非常にわかりやすい。
さてどうするか、と雷太が顎に手を当て考える仕草をした時、隣で紅が言った。
「じゃあ羊ケ丘さん、僕と一緒に先に学園に戻りませんか?次の会議で使う体育祭の準備資料、ちょっと直したいところがあって、実は早めに帰れると嬉しいんです。それに羊ケ丘さん一人残して帰るのも心配だから」
紅は雷太と雪だけ残して優也を連れて学園に帰ろうとしている。
「じゃあ紅くんと一緒に帰ろうかな。折角だから、仮の恋人だなんてばれないように、今のうちに二人で親睦を深めなよ。ね」
「そうですね。しっかりと仲良くなっておいてください。あ、そうだ。リアリティーを持たせるためにお互い名前で呼び合うくらいはした方がいいですよ」
「名前で。なるほど」
「え、ちょっと、優也まじで帰るのか?」
「じゃあね雪!門限ちゃんと守るんだよ」
紅と優也はそう言い残し、肩を並べてあっさり帰ってしまった。
残された雷太と雪はお互い顔を見合わせる。
「どうする、……会長」
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