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第69話

──俺のも触ってみる?だなんて。 驚くほど甘美な囁きだと思ってしまった。 あの白い雪のような柔肌に、本当に触れてもいいのだろうか。 その時再び雷太の脳裏にピンクの乳首が過ったが、この誘いを断るなんて恋人(仮)としては不自然だ。 暫し葛藤の後、雷太は頷き、右手を雪の左胸にそっと押し当てた。 「ん……」 雪が小さく鼻にかかったような甘い音を漏らす。 非常に不埒なことをしているような気がして、雷太は雪の心音を探ることに集中した。 芯を持った硬い粒が当たったような気がしたが、今はそれを気にしている場合ではない。 いや、気になって仕方がないのだけれど。 とくとくとく……と、薄い布越しに小動物のような速い心音が掌に響く。 雷太のどっしりとした心音と比べると、雪の方が雷太よりも、もっと緊張しているようだった。 「凄いな。自分の乗ったジェットコースターが高いところから落ちる寸前のような緊張具合というところか?」 「ふふっ、絶妙な例え方だな。でも、そう……めちゃくちゃどきどきしたんだ。名前呼ぶの。なんていっても肉食組の会長だしさ」 はぁっと、安堵の溜息と思われる息をつき、雪が顔を上げて微笑んだ。 純真で穢れなく、優しく愛らしい笑顔。 ──そこに天使がいる……と思えた。 加えて、愛らしい長い黒耳と、尻の丸みを想像させる丸い尻尾。 言動はやんちゃで子供っぽいが、その容姿は男を惑わすくらいに小悪魔然としていて、雷太をも魅了しようとしている。 「俺もだ。名前を呼ぶことだけじゃなく、お前と接すること自体、未知の世界で緊張する」 「なっ、なんだよそれ!人のこと宇宙人みたいに言いやがって」 雪は急に元気を取り戻し、透明感のある澄んだ声を張り上げる。 「ははっ、しおらしいお前よりこっちの方が俺は好きだぞ」 他意はない。雷太は思ったことを口にしただけだった。 すんなり、好きという言葉が出てきたことに自分自身ちょっと驚く。 「す、すきって……」 と、また雪が手でへにゃりと耳を折り曲げ顔を隠す。 雪の行動原理が今ならよくわかる。 恥ずかしいと長耳で顔を隠す仕草をするのだ。 雪が恥ずかしがり屋だということもわかった。 「恥ずかしいのか。そうか、恥ずかしいと耳で顔を隠すんだな雪は」 「るせーっ……」

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