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第70話

雪の口の悪さもきっと照れ隠しからきているのだろう。 そう考えればそれだって可愛らしい。 しかし、はたと気付く。 (仮にも恋人同士なんだからこれくらいの感情はあって当たり前……なのか) 雷太は雪と親密になることを喜ぶ反面、想うことはどのラインまで許されるのか疑問を持った。 これは明らかに下心がある故の疑問だ。 「それより雷太、さっきの……行く?」 「あぁ。MEGAスポーツだったか」 「うん。場所、ここから近いのかな」 情報誌に再び目を落とし、店の詳細を確認した。 掲載されている交通案内によると、ここからバスで到着まで10分程だった。 「バスを利用するのが一番近い。ここから10分程度と書いてあるぞ」 「えー。走っていった方が速いって」 「ダメだ。街中を全力疾走するやつがどこにいる。学園外での事故は当人同士の責任となり、学園は一切介入してくれない。学園内でのケガなどは保険が下りるがな」 「ん……?保険?そんなもん入ってたんだ俺たち。知らなかった」 「確かに授業料その他もろもろを支払ってくれているのは親だろうから、知らない者もいるだろう。それとは別に、MEGAスポーツまでバスに揺られて10分だぞ。持久力のないお前が走り切れるのか」 「走れるよ……!じゃあ雷太はバスに乗れよ。俺は走るから!俺の方が絶対速いしっ」 雪が頬をぷくっと膨らまし、雷太から顔を背ける。 こうなると雪は引かないだろう。 雪が小心者な割に、強気な態度、言動を重ねることは知っていた。 雷太は雪の存在を知ったあの日、雪に手を焼かされたことを思い出す。 「すまん、言い方が悪かった。バスの方が安全だし、その分の体力はこれから行くMEGAスポーツまで温存しておけばいい。だからバスで行こう」 「……わかった」 方法さえ間違えなければ、雪を怯えさせ傷つけることはない。 雪が鬣犬に狙われている事実を考えれば、歩み寄る方法を間違えてはいけないのだ。 「雪、手を繋いでも?」 「っ、なんで」 雷太はそっと手を雪に差し出した。 迷子になられても心配だし、痴漢や変質者に声を掛けられたらそいつらを半殺しにしてしまいそうだし、だったら自分の保護の下、一緒に歩けばいいというのが雷太の本音だ。 しかしこれを正直に伝えるのが正解なのかがわからない。 「恋人として自然に振る舞えるように日頃から練習しておきたい。嫌か?」 「練習?」 「そうだ。練習だ」

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