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第71話
練習だと思わせれば雪はきっと抵抗感なく手を伸ばしてくれるのではないか。
雷太はそう考えたのだが、雪は浮かない表情だ。
また言い方を間違えてしまったのだろうかと不安になる。
「うん……わかった。いいよ 」
「いいのか」
「うん」
雪がどうしてそんなに悲しげな顔をしたのかわからなかったが、雷太はひんやりとした雪の手をとって数メートル先のバス停へと向かった。
「バス停、すぐそこだな」
雪は曖昧な笑みを浮かべながら雷太を見上げる。
確かに、バス停はすぐ目の前だ。
なのに雪が迷子になったらどうしようと考えるなんて、やっぱりどうかしている。
雷太は自分の思考回路が明らかにぶれてきていることに内心狼狽えた。
「あ、あぁ、そうだな」
時刻表を確認するとバスは10分後の到着だった。
前方には5人ほど、獣人が並んでいる。
雷太と雪はその後ろに並んだ。
バスがくるまでの間、何を話そうか。
雷太がそんなことを考えていると、雪が口を開く。
「なぁ、雷太はさ、その……恥ずかしくないの?」
「何がだ」
「この手だよ。いくらなんでも男同士だし、変だろ」
「……確かに男同士だな。だが正直お前のことはただの男として見てはいない」
そこまで言って雷太ははっとし口元を押さえる。
自分は今、雪に何を言おうとしたのか。
「わかってるよ。俺が学園生活エンジョイするための同情から始まった恋人ごっこ。その相手だろ」
雪がそう言って溜息を吐いた。
「……同情?全くしていないと言えば嘘になるが。それより男同士に関しては、自分は別だが特に偏見はないつもりだ。お前は?」
「俺は……、男同士なんて真っ平ごめんだ。けど、今回のこれに関しては仕方ないことなのかなって思ってる」
雪は視線を落とし下唇をきゅっと噛んだ。
雪にとって不本意な出来事なのだろうと予測がいく。
雪との距離が縮まることを喜ばしいと感じている雷太だったが雪の言葉は胸をチクリと突き刺した。
「そうか。だが学園生活なんてあっという間だ。それまで仲良くやろう、雪」
「う、うん……」
雪は鼻をずずっと鳴らし、目元を空いている手の甲でごしっと擦る。
この時雪がまさか涙を拭いていたなどと、雷太は知る由もなかった。
その後バスが到着し、雷太は雪を先に乗せ自分も乗り込む。
座れる座席は見当たらず、立ってつり革に掴まる2人を乗せて、バスは目的地へ向け出発したのだった。
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