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第73話
「だから最初からいつもと変わりないって言ってんの」
「そうか」
考えていても埒が明かない。
雪は取り敢えず暗くなってしまう思考を止めて、MEGAスポーツへと気持ちを切り替えた。
「どうやって雷太をこてんぱんに叩きのめすかシュミレーションしてたんだよ」
「ん?勝負するのか」
「当たり前だろ。やるからには全力でやらなくちゃ。覚悟しとけよぉ」
雪がにやりと笑って雷太を見上げた。
すると雷太の金の耳がピクリと動き、「びびってんのか」と雪が笑った。
程なくしてバスは目的地へ到着した。
バスの通る大通り沿いにMEGAスポーツがあり、中へ入るとカップルやファミリー、友達同士できている若者たちなど、休日ということもあり老若男女様々な獣人達で混み合っていた。
受付を済ませ、入館証となるリストバンドを装着し、ゲートを潜る。
「雪は以前からこういうところによく来ていたのか?」
「学園に入学する前まではたまに。でも入学してからは全然。何せ寮の居心地が良すぎて外出なんかしなくても全然困らないからな」
平然を装って答えたが本当はそんな理由で寮に引きこもっていた訳ではない。
一種のトラウマが雪の行動を制限させていた。
中学時代、あの出来事が起こる前までは、活発にどこへでも遊びに行けたのだ。
親友と思っていた男友達に襲われたあの日までは。
忘れたくても忘れられない嫌な思い出が雪の頭をちらりと過り、自然と顔が強張った。
(違う。それは今思い出すことじゃないだろ)
それを頭から追いやろうと目の前にある様々なアトラクションへと視線を動かした。
だから雷太の指が近付いてきたことに、全く気付かなかった。
不意にするりと雪の頬を雷太の指が滑る。
「……っ、なに」
「いつもより表情が固い気がするんだが、何かあったか?」
「別に何も。それより雷太、どれで勝負する?」
「なんだ、俺が選んでもいいのか?負ける気はないぞ」
「俺だって負けねぇよ。あ、あれやろっ、雷太っ」
雷太に話を振っておきながら雪は雷太の手をぐいっと引いて、目の前にあった金網で仕切られているピッチングコーナーへ飛び込んだ。
雪の後ろから雷太が頭を屈めながらついてくる。
「硬球は重いぞ。飛ばせるか?」
「む。なめんなよ。こう見えて結構コントロールはいいんだぞ」
「ほう。それは楽しみだ」
いつの間にやらお互い戦闘モードに切替わりスイッチが入る。
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