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第74話
雪は触れられた頬からじわりと滲む熱を手で押さえ、先に投球位置に立った。
先行して投げるつもりだ。
入口にある点数をカウントするマシンのスタートボタンを押す。
するとマシンからボールが放たれ、雪はそのボールをしっかりとキャッチした。
前方10数メートル離れたところに設置されているのは9分割された数字パネル。
その数字を的にしてコントロールよくボールを当てるゲームだ。
「1番」
雪は番号を宣言し大きく振りかぶる。フォームだけを見ればボールはどこまでも飛んでいきそうなくらいに格好いい。
その姿に雷太も目を見張る。
運動神経だけは抜群な雪。
しかし、華麗なフォームを披露し、その指先から離れていくボールは大きく山なりに宙に楕円を描き、パネルの少し手前で落ちた。
「だぁ~っ、くそっ、届かねぇ」
まさかパネルにボールが届かない事態が発生するとは思ってもみなかった。
後ろで見ていた雷太はくすくすと笑っている。
失態を見られ恥ずかしいという気持ちもあるのだが、悔しさが勝って今はそれどころではない。
「次だ次っ」
雪は次々にボールを的へ向かって投げる。
少しずつ肩が温まってきてから低く伸びのある投球ができるようになり、最後の一球。
「全然当たんねぇっ、最後ど真ん中!5!」
狙いを定め腰を落としてボールを投げる。ボールは見事に5番のパネルを捉え、バンッと音を立てて後方へ倒された。
「やった!やっと当たったーっ!」
12球中、当たったのは1回きり。
しかしラスト1球というところでの大当たりは喜びも一入だ。
雪は両手を上げて万歳のポーズでぴょんぴょんと飛び跳ねた。
跳ねる度に長耳がふさふさと揺れる。
たった一球だが当てられたことに満足し、雪は上機嫌で雷太と交代した。
太はスッと投球位置に立ち、身体のバランスを取るように細長く毛先まで金色をした尻尾を少し持ち上げ腰の位置で固定させる。
そして雪と同じように番号を宣言し、長い手足で振りかぶり、思わず誰もが見惚れてしまいそうな投球を見せた。
軽々とコントロールよくスピードのある球を投げ、ぐんぐん伸びていく球は、雷太の宣言したパネルを次々と撃ち抜いていく。
「うっそ……」
結局遊び球を3球きっちり残し、雷太はピッチングゲームをパーフェクトに制したのである。
「俺の勝ちだな」
このゲームを皮切りに完全に火のついた2人は、手あたり次第、端から端まで様々なゲームを楽しんだ。
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