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第85話

「黒兎が山王にマーキングされてから、他の生徒達から避けられるようになった。最早いじめの域だ。かろうじて同室の羊ケ丘はいつもと変わりなく黒兎と過ごしているが……」 「どういうことだ」 良かれと思ってしたことには違いないが、自分の欲望に任せてしてしまった部分も大いにあり、雷太の胸中は複雑だ。 しかしどうして雪がそんな嫌がらせを受ける羽目になったのだろうか。 「早い話が妬み僻みの類いだ。草食組の間で、肉食組生徒会の人気は非常に高い。理知的な肉食獣人は草食の憧れなんだ。特に山王、お前は特に黒兎のような小動物型の生徒からの人気が根強く同じような背格好の黒兎は反感を買っている状態だ。またそれとは真逆だが、黒兎が纏った山王の強い肉食の匂いに怯えてしまう者もいる。総じてそれが黒兎の居場所を奪っているんだ」 「そんな……すみません会長。俺達カラスのコミュニティを以ても、そういった情報は収集できていませんでした」 「いや、俺の考えが浅はかだったんだ。烏合が気に病む必要はない」 雷太の隣で情報伝達を得意とする烏合が雪の現状を伝えられなかった責任を感じて頭を下げている。 しかし烏合には何の責任もない。 全て自分の責任だ。 ぐらついた理性は自分の弱さの証である。 一時の感情に流されて雪の身を暗示ながらその傍ら、雪の乱れた姿を見たいと理性を失ってしまったから……。 しかし象山の申し入れ通り、雪から手を引いていいのだろうか。 (それは違う) 「象山、黒兎……いや、雪には悪いことをしたと思っている。しかし悪戯にマーキングしたわけではない。それだけはわかってほしい」 雷太は敢えて雪のことを名前で呼んだ。 そうすることで親密な関係なのだと伝えたかった。 仮の恋人関係だということがばれてしまったら、せっかくのマーキングも意味のないものになってしまう恐れがある。それだけはどうしても避けたい。 「山王と黒兎は交際中ということでいいのか」 雷太は象山の問いに頷いた。 「雪が孤立してしまった責任は俺にある。雪のことはどうにか対処する。申し訳ない」 「どうにかって具体的にどうするつもりだ」 「今度の合同朝会で発表しようと思う」 雷太は月の真ん中に開催される肉食草食合同の朝礼で雪と特別な関係であることを発表すると言っているのだ。 これには周りの生徒会メンバーも驚きを隠せずざわめいた。

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