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第87話

冷静で公平、中立的である草食の者がファシリテーターとして相応しいと、この場にいた誰もが思ったことだろう。 草食組の会計である小鳥(コトリ)は不安げな様子でおどおどとしているし、肉食組の面々は身体から滲み出るオーラが臨戦態勢を物語っている。 だとするとここはやはり、山羊が適任だった。 「よろしいですか」 山羊からの再びの問い掛けに、一同拍手で応え、そこからやっと会議がスタートした。 決定した種目は例年通り徒競走などの個人種目に、学年交流を目的とした二人三脚、余興を兼ねた借り物競争にパン食い競争。それから団体競技の目玉である学年対抗の選抜リレー、騎馬戦、棒倒しである。 これら競技の事前準備などの仕事を体育祭実行委員に割り振って、生徒会は風紀と安全面の管理をすることになるのだ。 騎馬戦、棒倒しは、多かれ少なかれ参加する生徒殆どが興奮状態に陥り、牙や角、爪など凶器となる角質が急激に伸びることが多い。そこで怪我をしない為にも専用の帽子と軍手の着用が義務付けられた。これも例年通りだった。 「最後に肉食組からフォークダンスの希望が出ているのですが、みなさん個人としてはフォークダンスについてどう思われますか?僕は正直言って、男同士でフォークダンスはないなと思うんですが」 山羊が薄い肩を竦めながらフォークダンスを批判する。 きっと大多数が同意見だろう。 「フォークダンスじゃないにしろ、肉食と草食の交流を目的とした競技が何か一つあってもいいと思います。こうしてお互いが大々的に交流できるのも年に数回ですし……」 紅が言った。フォークダンスが形を変えたとしても全体交流という目的は変わらない。 「それには肉食組生徒会全員が賛成だ。今回の雪の件も、お互いのことをあまりよく知らないから、匂いだけで避けられたり怯えられたりしているのだと思う。何かいいアイディアはないだろうか」 雷太が周囲に意見を求める。 安全で楽しく、且つ草食、肉食の交流を目的とした競技。 そんなものがあるのだろうかと、そこにいる全員が首を傾げた。 「ダンスはいいと思うよ。リズム運動だからね」 屈狸が発言した。確かにダンス自体は悪くない。 それが男女で行うと盛り上がるフォークダンスだから皆乗り気にならないのだ。

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