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第88話

「じゃあ、あの、こういうのはどうですか。盛り上がるように少しアップテンポの曲で、振付は同じ動作の繰り返しで簡単に。肉食と草食でペアになり、たくさんの生徒と交流ができるように少しずつ移動するんですが、触れ合うのは手でハイタッチくらいで留めておけるようなダンス……とか」 小鳥がおどおどしながらも発言する。 その内容はフォークダンスに代わる、交流を目的とした団体競技になるとその場にいた全員が思った。 「それいいかも。ダンスなら俺達カラスにも得意な奴いるし、協力を仰げば手伝ってくれると思います。小鳥の方にもダンス得意な奴いるんだろ?」 烏合が問うと、小鳥は控えめに微笑みながら頷いた。 「それでは、急ではありますが、小鳥と烏合で簡単な創作ダンスを準備してもらうということでよろしいですか」 山羊の言葉に全員が拍手で応える。合同会議の本筋はこれで大体決定した。 しかし雷太にはまだ一つ確認しておかなければならないことがある。 雪のことだ。ここにいる生徒会メンバーは昨年とは顔ぶれが違う。雪がされたことをどこまで把握しているのかわからないが、雪を体育祭に出場させないと考えているのならば、今すぐここでその考えを取り下げてもらわなければならない。 「それでは、今会議はこれを以て終了とさせていただきま」 「待ってくれ」 「……なんでしょうか山王会長」 雷太は挙手し立ち上がる。雪の人権を蹂躙するような卑怯なやり方は絶対にさせない。 雷太の身体から威圧のオーラが一気に放出され、空気がぴりぴりと揺れた。 「昨年の体育祭、雪は一日中ベッドで眠っていたそうだ。参加したかったのに参加できなかったと聞いている。それについて掘り下げる気はないが、今年の体育祭、雪に手出しは無用だ。雪は体育祭をとても楽しみにしている。雪の安全については俺が責任を取る。俺がずっと近くで見ていようと思う。以上だ」 有無を言わせない口調で一息に雷太が言い放つ。雷太の言動全てに威圧のオーラが纏わりついて、そこにいる全員が誰も反論できなかった。 「黒兎の昨年のことは俺達もよく知らないんだ。きっと重大な事件が起きないようにと施されたことだと思うのだが……。山王の言うことはわかった。俺達も黒兎を体育祭に出場させないということは考えていない。こちらももちろん、黒兎の安全を見守ろうと思う」 「あぁ……ありがとう」 雷太が威圧の風を纏ったまま、象山に頭を下げている。 異様な光景だった。

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